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第3話
「ケンカなんてしていません。ただ、小敏が…」
あぐねたように言う煜瑾に、ますます小敏は気を悪くしたらしい。
「違うよ!煜瑾がボクの優木 さんのことをバカにしたんだよ」
「していません!文維、信じて下さい。私はただ、小敏の新しい恋人さんがどれほどステキでも、文維以上に素晴らしい人はいないと、真実を言っただけです」
2人はムキになって文維に主張してくるが、あまりにも幼稚なレベルに文維は対応に困ってしまう。
「…仲が良いのは何よりだけど、私を巻き込むのは、やめてもらえませんか」
恋人 と従弟 との板挟みとなって、文維は頭を抱えたくなる。
「だって!」「だって!」
この2人がムキになって自分に訴えかける姿は、文維にとってはカワイイとしか見えないのだが、本人たちは至って本気であるので、笑い飛ばす訳にも行かない。
「なら、こうしたらどうですか?その小敏の新しい恋人と言う人を呼んで、4人で一緒にお食事でも。相手の方が、どれほどステキな方なのか分かれば、煜瑾も納得するでしょう」
文維は公正な提案をした振りをしているが、実際、最近まで不安定な交際を繰り返してきた従弟が本気になった相手と言うのを、しっかりと見極めたいという保護者的な目算もあった。
「ボクはいいよ。煜瑾が、文維より優木さんの方がステキだからって、盗 らないって約束できるなら」
ニコニコしながら小敏はそう言って、ツンと煜瑾の額を人差し指で軽く突いた。
その額を慌てて手で押さえて、ふざけてばかりの親友をクスクス笑って煜瑾が言い返す。
「そんなこと、ありえないのに、小敏ったら、とても面白いことを言うのですね」
これが女性的な当てこすりであれば、文維も冷や冷やするところだが、2人とも、純粋に自分の恋人に自信を持っていて、相手を貶めようという意思が全く無いため、文維としても微妙な表情にならざるを得ない。
「うふふ」「ふふふ」
そして、小敏と煜瑾は楽しそうに笑い合った。
文維は、この2人が親友なのが不思議なような、当然のような、複雑な感想を抱いた。
「あのね~、優木さんは、日本人だから、日本料理がとっても上手なんだよ」
「え?恋人って日本人なんですか?上海で知り合ったのですか?」
「そうなんだよ~。もうね、それこそ運命的な出会いって感じでさ」
小敏は初めて会った夜のことを思い出し、幸せそうに微笑んだ。
「日本料理って言っても、家庭料理で素朴なんだけど、とっても美味しくて、お箸であ~んとかって味見させてくれるんだ~」
「わあ。いいですね~」
煜瑾は大きく深い色をした黒い瞳を、キラキラと輝かせながら、親友に相槌を打った。
それがあまりにも純真で無邪気であるがゆえに、愛らしくて、小敏はもちろん、文維までも穏やかな気持ちになって見守った。
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