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第4話

 話が弾む煜瑾と小敏を見詰めること以外、今の文維にすることは無かった。 「優木さんってば、いつでも、何でも、ボクの好きな物とか聞いて確かめてくれるし、そのくせ時々ちょっと強引でドキドキさせるんだ~」  浮かれる小敏を前に、煜瑾はチラリと自分の恋人に視線を送った。 (はいはい。好きな物を聞いて、強引なこともすればいいのでしょう?)  文維は煜瑾の視線の意味に気付き、何も言わずにただ頷く。そんな察しの良い恋人が嬉しくて、思わず煜瑾も口を開いた。 「えっと~、文維とはお料理なんかはあまりしませんけど…。お風呂では、文維はとても丁寧に私を洗ってくれますよ」 「!」  負けてはいられないとでも思ったのか、煜瑾も恋人自慢を始めたが、これにはさすがに文維だけでなく、小敏も口にしたコーヒーを吹き出しそうになった。 「い、煜瑾、そういうことは、こういうところで口にすることではありませんよ」  決して批判的な口調にならないように気を付けて、文維は優しく世間知らずな煜瑾に注意をした。 「え?」  意味が分からず、純真な目で恋人と親友を見詰めていた煜瑾だったが、かなりのタイムラグで、恥ずかしさがやって来た。 「わ、私は、なんてことを!」  真っ赤になった煜瑾が可愛すぎて、他人の目に触れさせたくない文維は、煜瑾を胸の内に引き寄せ、ギュッと腕の中に隠してしまう。 「そういう自慢なら、ボクもいくらでもあるからね」 「小敏!」  楽しそうに挑発する小敏を叱っておいて、文維は煜瑾を慰めなければならなかった。 「ねえ、今夜の夕食のレストランって決まってる?」  今夜は文維の奢りだということを思い出して、小敏は訊ねた。 「いいえ、まだですが?」  何事かと文維が聞き返すと、小敏がニッコリとした。 「今、7時でしょ?あと30分くらいで優木さん、この近くを通るらしいんだ。本当に食事に誘っていい?」  ほんの少し文維に張り合うような顔つきで小敏が言うと、文維は何もかも分かった様子で了承する。  それを確かめて、小敏はスマホで恋人にメッセージを送った。  今夜はラブラブカップル2組の初めてのダブルデートだ。小敏は、これほどに自信たっぷりに恋人を誰かに紹介するのは初めてかもしれない。  彼なら、自分を本気で愛してくれている優木であれば、誰に紹介することも恥ずかしくないと、小敏は思った。  誰に何を言われようが、今の小敏に恥じる気持ちも、怖れる気持ちも無い。  優木さえ自分を愛してくれたら、この世界に恐いものは何も無いのだ、と小敏は思っていた。 「あ、お風呂と言えば、この前、優木さんがね…」 「何ですか?」  楽しそうな小敏に、無邪気な煜瑾はうっかり話に乗ってしまう。 「小敏も、煜瑾も、いい加減にしなさい!」  カワイイ2人に、いつでも振り回されるのは文維だったが、この先はもう1人仲間が出来そうだ、と期待をしながら苦笑した。

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