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第6話
そこは、日本にもある有名なイタリアンカフェのチェーン店のようだった。店名やロゴを確認した優木は、何年も上海に駐在しながらこんな店があるとは知らなかった。
日本発祥のチェーン店で、地元・上海人に人気のファミレスと言えば「萨莉亚 」があるが、こちらは上海市内に幾つも店舗があるので優木も何度か利用している。面白いことに、「萨莉亚」が日本企業であることを知る中国人は意外と少ない。
「初めまして、優木さん」「お会いできて、光栄です…」
ジェントルで威風堂々とした文維と、天使のように清らかで穏やかな笑みを浮かべた煜瑾が、優木を歓迎してくれた。
こんな風に、優雅で気品のある2人が、甘えん坊で小悪魔の小敏の友人だとは、優木は不思議な気がした。
「優木さん、こっちは僕の従兄の包文維。上海セレブに人気で、予約が取れないカウンセラーとして有名なんだよ」
「よしなさい、小敏」
それまでクールな紳士にしか見えなかった文維だが、はにかんだように苦笑する様子が案外可愛らしくて、優木は少し緊張を解き、文維の恋人である煜瑾はウットリと見惚れている。
「で、コチラは文維の大事な、大事な唐煜瑾。上海では有名な名家の王子さまなんだ」
「小敏、煜瑾をからかわないで下さいね」
恥ずかしそうに俯いてしまった人見知りの煜瑾を庇うように、文維が言った。
そんな様子を微笑ましく思い、優木は優しい眼差しで2人を見つめていた。
「ちょっと~優木さん!煜瑾がキレイでカワイイからって、そんな風にデレデレ見ないでよ!」
「うわっ!」
恋人の視線を誤解し、ムッとした小敏が横柄な態度で席に着き、ボンヤリと立っている優木の腕を引いて自分の隣に座らせた。
「で、文維、煜瑾。こちらが、『ボクの』優木さん」
小悪魔はそう言ってニヤリと笑った。まるで煜瑾に挑戦するような笑みだが、当の本人の煜瑾は、心が純粋すぎて皮肉や当てこすりの意味が分からず、キョトンとしている。
「あ、ど、どうも。初めまして。優木真名夫です」
慌てて優木が自己紹介をすると、和やかな雰囲気で受け入れられた。
「ああ、時間が掛かりそうなドリアとピザは先に注文しておいたからね」
文維は正面に座った小敏と優木にそう言うと、ゆっくりと煜瑾の方を向いて目を合わせ、互いに分かり合った様子で小さく頷いた。
何も言わなくても相手のことが分かる、2人の間にある親密感が見ているだけの優木の胸の内まで温かくした。
「はいはい。どうせ煜瑾の好きなエビクリームドリアと、スイートコーンのピザでしょう?」
呆れたように小敏が言うと、煜瑾は品良くクスリと笑った。
「小敏の好きなマルガリータピザですよ」
「ふふふ。さすが、文維。よく分かってらっしゃる」
優木はと言えば、恋人の煜瑾の好みはもちろん、小敏の好みもちゃんと把握している文維を、若いのに優秀な人物だな、と単純に尊敬した。
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