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第7話

 そこから先は、小敏の独壇場と言って良かった。  サラダやフライドチキン、それにパスタは決められないからと2種類も注文した。 「ピザも来るんだろう?そんなに食べられるのか?」  優木はスラリとしたアイドル並のスタイルでありながら、見た目からは信じられないような大食漢の小敏を心配して口を開くが、小敏は「へ~き、へ~き」しか言わないし、よく知っているはずの従兄の文維が何も言わないので大人しく引き下がるしかなかった。 「あの…、優木さん、お飲み物は?」  ドリンクメニューを見ていた煜瑾が、おずおずと訊ねた。  そんな煜瑾に、名家の王子にしては、随分と恥ずかしがり屋だな、と優木はちょっと意外に思う。 「…ビール、ありますかね?」 「はい」  煜瑾はドリンクメニューのビールのページを開いて、優木に見せた。 「いろいろ種類があるようです。どれになさいますか?」 「ん~」  メニューを受け取り、優木はビールだけでも何種類もあることに戸惑ってしまう。 「私はいつも、ここでは赤ワインを飲むんですよ」  文維はそう言って、運ばれてきたサラダやチキンを小敏が独り占めする前に、自分と煜瑾の分を取り分けた。 「安いワインなんですけど、爽やかで飲みやすいので」 「ワインか~。イタリアンらしいね」  気弱そうな優木がそう言って笑った。  その笑顔に、煜瑾はハッとする。 (きっと、この人なら小敏を幸せにしてくれる…)  正直で、誠実で、いい意味で常識的な優木の印象に、煜瑾はそう確信した。 「ちなみに、お酒に弱い煜瑾は、ノンアルコールのサングリアにしました」 「はい。文維にお任せします」  優木は優木で、衛士(ガードマン)のような文維が、高雅な煜瑾王子(プリンス)を守っているようで、ちょっと羨ましい。優木は小敏たちよりずっと年上であるのに、小敏を庇護するどころか振り回されてばかりだ。年下の文維の余裕が、男のプライドをほんの少し傷つける。 「わ~、来たよ~!ボクの大好きなペペロンチーノとアラビアータのスパゲティ!」  はしゃぐ小敏の声に、我に返った優木はテーブルに置かれた2種類のパスタに眉を寄せた。 ニンニクとトウガラシの匂いだけでも目に染みるような気がする。イタリアンと言えども、この香辛料の使い方は中国だな、と思う。 (四川料理じゃないんだから…)  それでも、誰に取り分けることもなく、さっさと食べ始めた小敏が、満足そうに眼を細め、モグモグしているのを見ていると優木はそれだけで十分幸せだった。 「じゃあ、私もノンアルのサングリアで。ビールはすぐに腹が膨れるから…」  優木が煜瑾と同じものを選んだと気付いた小敏は、口いっぱいにスパゲティを詰め込み、さらにフライドチキンに手を出そうとしていたのだが、その動きが止まった。

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