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第8話
小敏の様子に気付いた煜瑾が、不思議そうに見つめる。
「どうかしましたか、小敏?」
今度は、そんな煜瑾に気付いた文維が小敏に声を掛けた。その言葉に慌てて優木も隣に座る恋人の顔を覗き込んだ。
「どうした、シャオミン?喉に詰まらせたんじゃないか?それとも、辛すぎて食べられないのか?」
口いっぱいに頬張り、リスのように頬を膨らませた小敏に、優木は心配して抱き寄せ、背中を擦り始める。
そんな風に真面目で親切な優木を安心させようと、小敏は急いで咀嚼し、注文しておいた白のスパークリングワインで残りを流し込むようにして呑み込んだ。
「シャオミン?」
恋人の異変に、動揺する優木に、小敏はなぜか恨みがましい視線を送った。
「ナニ?」
もの言いたげな小敏に優木が問いかけると、カワイイ恋人は拗ねた口調で言い返した。
「優木さん、煜瑾のこと気に入ったんだ…」
「は?」
「煜瑾のことを嬉しそうに見てるし、同じ飲み物注文するし…」
すっかりご機嫌を損ねた小敏を、文維は呆れたように見ている。優木が煜瑾を見る眼差しが、恋愛のそれではなく、友愛や友情であることに気付いているからだ。ただ、小敏が本気で嫉妬しているのか、嫉妬した振りをして見せて、優木をもてあそんでいるのかは、さすがに「上海1予約が取れないカウンセラー」でも判断がつかない。
「な、何を言ってるんだよ、シャオミン!」
「どうせ、ボクなんて煜瑾ほどキレイじゃないし、清純でもないし、守ってあげたくなるほど可愛くも無いしね!」
「え?」
急に自分の名前が出たせいで、大好きなトマトとチーズのカプレーゼをつついていた煜瑾は、慌てて顔を上げた。
「でも煜瑾は、もう文維のモノだからね!」
それだけを言うと、小敏はプイっと優木から顔を背けてしまった。
そんな子供っぽい小敏に、文維がフッと笑い、どうして良いか分からずに目を丸くしている煜瑾に意味ありげに目くばせした。
「煜瑾も、優木さんが気に入ったようですけどね」
「!」
文維の思わぬ爆弾発言に、小敏も驚いて文維を顧みて睨みつけた。さすがにこれらの様子から、煜瑾も何かを察したようで、クスリと愛くるしい笑顔を浮かべると、思わぬことを言い出した。
「もちろん、初対面ですけど私も優木さんのことが好きになりましたよ」
「煜瑾!」
あまりにも意外な言葉に、小敏はあんぐりと口を開けたまま、カワイイ親友の顔を穴があくほど見つめた。
「ど、どういうこと?」
純真な煜瑾が、まさかこんなこと言い出すとは思わなかった小敏は、怒りというよりも、驚きで混乱してしまう。
「だって、小敏が大好きになった方でしょう?誠実で、真面目で、とっても優しい方だって、こんな短時間でも分かりました。好きになって当然でしょう?」
「もう~!」
天使のような煜瑾からの反撃に、小敏は言い返すことも出来ずに歯がゆい思いをするのだった。
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