9 / 10

第9話

「わ~美味しそう~」  そこへ、熱々のエビクリームドリアが運ばれてきた。  無邪気な煜瑾は、すぐに小敏をからかうことに興味を失った。 「熱いから、気を付けて下さいね」  文維も、すでに煜瑾にしか関心が無いようだ。 「……」  相手にされず、取り残された小敏は、気持ちの持って行き場を失って、無表情のまま煜瑾のドリアを見つめていた。 「ん?どうした?シャオミンも、ドリア食べたいのか?」  そこをすかさず優木が、小敏のご機嫌を取るように優しく声を掛ける。 「あ、ほら!お待ちかねのピザも来たよ。他にも食べたいものがあるなら、注文したらいいよ」 「ん~」  さすがに大好きな優木にチヤホヤされて、小敏もいつまでも拗ねてはいられなくなった。 「じゃ~、ボク~。…ステーキ食べたい!あと、ポテトフライも~」 「それを忘れてたね~、シャオミンはフライドポテトが好きだもんね」  優しく甘やかされ、目に見えて小敏の機嫌が直るのが分かる。 「先にピザを食べたらどうだい?熱いうちに食べないと、ね」 「うん。優木さんも食べよう」  小敏はそう言って、マルガリータピザの一切れを手に取り、自分より先に優木の口元に運んだ。 「はい。あ~ん、して」 「い、いや、シャオミン…それは…」  こんな公衆の面前での行為が恥ずかしくて、照れ臭くて、救いを求めるように向かい側に座った文維と煜瑾の顔を見た。 「あ…」  しかし目の前では、文維がフォークの先に刺したトマトとチーズを煜瑾の口に運んでいた。 「あ~ん」  少し恥じらいながらも、素直な煜瑾は何の疑いを持つことも無く口を開いた。  その愛らしさ、互いを信じ合い、想い合う純粋な気持ちの美しさを目の当たりにして、優木は改めてココは日本では無いのだ、と開き直った。 「じ、じゃあ…。あ~ん」  真っ赤になり、ギュッと目を瞑り、覚悟を決めて口を開けている優木に、すっかり機嫌を良くした小敏がクスクス笑った。そして、その明るい笑顔で、自分の好物であるマルガリータピザを、大好きな人の口に押し込んだ。 「美味しい?」  無理に押し込まれたピザに、よく味も分からなくなった優木だが、楽しそうな小敏に何とも言えない満ち足りた想いになる。 「ボクが食べさせてあげたから、美味しいんでしょ?」  自信満々の恋人に、優木もまなじりを下げて、人の好い笑顔で何度も頷いた。 「優木さん、そんなに小敏を甘やかせてはいけませんよ」  煜瑾の分のピザを取り分けながら、文維はそう言って笑った。 「自分だって、煜瑾のコト甘やかせているクセに~」  小敏が言い返すと、煜瑾が遠慮がちに答えた。 「だって、文維に食べさせてもらうと、何倍も美味しいんですよ」 「そうだよ。俺だって、大好きな小敏に食べさせてもらうから旨いと思うんだ」  優木の言葉に、小敏は一瞬だけハッとしたような顔をして、すぐに人タラシの甘えん坊の表情に変わった。 「じゃあ、ボクも優木さんに食べさせて欲しいな」

ともだちにシェアしよう!