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第9話
「わ~美味しそう~」
そこへ、熱々のエビクリームドリアが運ばれてきた。
無邪気な煜瑾は、すぐに小敏をからかうことに興味を失った。
「熱いから、気を付けて下さいね」
文維も、すでに煜瑾にしか関心が無いようだ。
「……」
相手にされず、取り残された小敏は、気持ちの持って行き場を失って、無表情のまま煜瑾のドリアを見つめていた。
「ん?どうした?シャオミンも、ドリア食べたいのか?」
そこをすかさず優木が、小敏のご機嫌を取るように優しく声を掛ける。
「あ、ほら!お待ちかねのピザも来たよ。他にも食べたいものがあるなら、注文したらいいよ」
「ん~」
さすがに大好きな優木にチヤホヤされて、小敏もいつまでも拗ねてはいられなくなった。
「じゃ~、ボク~。…ステーキ食べたい!あと、ポテトフライも~」
「それを忘れてたね~、シャオミンはフライドポテトが好きだもんね」
優しく甘やかされ、目に見えて小敏の機嫌が直るのが分かる。
「先にピザを食べたらどうだい?熱いうちに食べないと、ね」
「うん。優木さんも食べよう」
小敏はそう言って、マルガリータピザの一切れを手に取り、自分より先に優木の口元に運んだ。
「はい。あ~ん、して」
「い、いや、シャオミン…それは…」
こんな公衆の面前での行為が恥ずかしくて、照れ臭くて、救いを求めるように向かい側に座った文維と煜瑾の顔を見た。
「あ…」
しかし目の前では、文維がフォークの先に刺したトマトとチーズを煜瑾の口に運んでいた。
「あ~ん」
少し恥じらいながらも、素直な煜瑾は何の疑いを持つことも無く口を開いた。
その愛らしさ、互いを信じ合い、想い合う純粋な気持ちの美しさを目の当たりにして、優木は改めてココは日本では無いのだ、と開き直った。
「じ、じゃあ…。あ~ん」
真っ赤になり、ギュッと目を瞑り、覚悟を決めて口を開けている優木に、すっかり機嫌を良くした小敏がクスクス笑った。そして、その明るい笑顔で、自分の好物であるマルガリータピザを、大好きな人の口に押し込んだ。
「美味しい?」
無理に押し込まれたピザに、よく味も分からなくなった優木だが、楽しそうな小敏に何とも言えない満ち足りた想いになる。
「ボクが食べさせてあげたから、美味しいんでしょ?」
自信満々の恋人に、優木もまなじりを下げて、人の好い笑顔で何度も頷いた。
「優木さん、そんなに小敏を甘やかせてはいけませんよ」
煜瑾の分のピザを取り分けながら、文維はそう言って笑った。
「自分だって、煜瑾のコト甘やかせているクセに~」
小敏が言い返すと、煜瑾が遠慮がちに答えた。
「だって、文維に食べさせてもらうと、何倍も美味しいんですよ」
「そうだよ。俺だって、大好きな小敏に食べさせてもらうから旨いと思うんだ」
優木の言葉に、小敏は一瞬だけハッとしたような顔をして、すぐに人タラシの甘えん坊の表情に変わった。
「じゃあ、ボクも優木さんに食べさせて欲しいな」
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