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03.いきなり大ピンチ!
「さっ、侍 !?」
森の中から現れたのはチョンマゲ頭の男達。5人……いや、10人か。全員武装状態。黒い甲冑を身に着けて、手には松明 、腰には刀を差している。3人は騎兵で、残りは歩兵みたいだ。
「何事じゃ」
奥から別の人が出てきた。髭面のオッサンだ。立派な甲冑を身に着けている。この人も騎乗中。武将か何かか?
「何だあの着物は? 珍妙であることこの上ない」
「っ!?」
言われて手元に目を向ける。制服だ。空色のブレザーに赤いネクタイ、そして紺色のズボン。チョンマゲに囲まれた今となっては、絶望的なレベルで浮きまくっている。~~っ、神様、せめて着物ぐらい着せてくれよな。
「その方! 名を申せ!!」
「っ! はっ、はい! なっ、仲里 優太 と申しまするっ!!」
「武家の者か?」
「えっ!? あっ、あの……えっと……」
そうか。この時代というかこの世界では、苗字アリは武士とか貴族だけなんだろうな。くそっ! 初っ端からやらかした。
「供の者はどうした? 姿が見えぬようだが――」
「殿!! お下がりください!!!」
不意に誰かが叫んだ。それと同時に。
「っ!? 何だ!?」
身動きが取れなくなる。鎖だ。細い鎖が俺の両腕と胴体に巻き付いている。
「なんて妖力だ! この者は……いえ、それは人の子ではありません!!」
「なっ……」
ここにきて漸 く気付く。俺はとんでもない思い違いをしていたみたいだ。妖力とは、読んで字の如く妖怪の力。人間が扱えるはずのない力なんだろう。
「俺はもう人間ですらないってことか」
乾いた笑みが零れた。これはもういよいよ詰みだな。この分だと人として生きていくのは難しい。かと言って、妖怪と生きていくのも。
「っ!」
そうこうしている内に忍者が迫ってくる。鋭い眼光。否が応でも悟ってしまった。この人は本気だ。本気で俺のことを殺す気なんだって。
「……っ、…………」
声が出ない。ほんの少しも。体も縮こまる一方で、頭も……ダメだ。何も思いつかない。怖くて怖くて仕方がない。助けて。必死に願っても、誰も助けてくれない。御手洗 、お前もこんな思いだったのか? それなのに俺は……っ。
「ごめん。~~っ、ごめんな――くぁっ!?」
「何っ!?」
体が吹き飛んだ。突き飛ばされたのか? いや、違う。飛んでる……?
「よっ、妖狐だ!!」
まさか本当に? 俺は今、妖狐に助けられた? のか?
「……うっ……ん?」
何だか明るい。これは月明かりか。今なら妖狐の姿を見ることも……。っ、よし。思い切って目を開けてみる。
「あっ……」
その瞬間、俺は思わず見惚れてしまった。目の前にいるその人があんまりにも綺麗だったから。宝石みたいな金色の瞳。満天の星空には銀色の髪が散らばっていて。
「転 」
直後、体が揺れる。何かに着地したみたいだ。
「おわっ!?」
ここは……木の上? 気絶しそうなくらい高い。ビルで言えば20階ぐらいか。幹の太さも尋常じゃない。端が見えない。どうなってんだ。今立ってる枝も幅5メートルはありそうだ。
「危ないところだったね」
「っ! ははははっ、はい! ありがとうございました!」
「どういたしまして」
同じ言語っぽいな。カタカナ系の言葉を避けるようにすれば、ある程度は話せるか?
「あれ? 君は……人間?」
「っ!?」
「どうして妖力を? 君は半妖なのかな?」
答えようによっては殺される。そんな気がした。慎重に言葉を選ばないと。
「ま、いいや。ひとまずこれを解こうか」
「えっ……?」
鎖が切れて落ちていった。けど、音は聞こえない。それだけ高い位置にいるってことだ。落ちたら死ぬ。確実に。
「よいしょっと――」
「おおおおっ!!? おろさないで!!!」
妖狐の着物を掴んだ。ちょうど襟の辺り。白くて銀色がかった高そうな着物だ。シワになる。マズい! 離さなきゃ! そう思うのに手が動かなくて。
「すっ、すみませ――」
「いいよ。じゃあこのままで」
妖狐が笑う。ニカっと音が立ちそうなぐらい。本物だと思ってしまった。アイツと、御手洗と同じだって。
「安心して。もう大丈夫だから」
妖狐が囁 く。俺の耳元で。優しく。穏やかに。
「あ……っ」
その時、ほろりと何かが零れ落ちた。涙だ。妖狐のじゃない。俺のだ。
「いいよ。思いっきり泣いて」
騙されるな。コイツは妖怪なんだぞ。気を許したら最後、殺されちゃうかもしれない……のに。
「くっ……う……ぁ……っ」
気付けば俺は妖狐の胸に顔を埋めていた。鼓動を感じる。これは妖狐の。心臓もあるんだな。思えば体温も。
「…………」
妖狐は何も言わない。何も聞かない。ただ黙って胸を貸してくれる。
「う……ひぐ……うぅ………~~っ……」
夜が更けていく。俺のみっともない泣き声と共に。
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