4 / 44

03.いきなり大ピンチ!

「さっ、侍!?」 森の中から現れたのはチョンマゲ頭の男達。 五人……いや、十人か。 全員武装状態。黒い甲冑姿で、手には松明、腰には刀を差している。 三人は騎兵で、残りは歩兵みたいだ。 「何事じゃ」 奥から別の人が出てきた。 髭面のオッサンだ。立派な甲冑を身に着けている。 この人も騎乗中。武将か何かか? 「何だあの着物は? 珍妙であることこの上ない」 言われて手元に目を向ける。 制服だ。空色のブレザーに赤いネクタイ、そして紺色のズボン。 チョンマゲに囲まれた今となっては、絶望的なレベルで浮きまくっている。 ~~っ、神様、せめて着物ぐらい着せてくれよな。 「その方! 名を申せ!!」 「っ! はっ、はい! なっ、仲里(なかざと) 優太(ゆうた)と申しまするっ!!」 「武家の者か?」 「えっ!? あっ、あの……えっと……」 そうか。この時代というかこの世界では、苗字アリは武士とか貴族だけなんだ! くそっ! 初っ端からやらかした。 「供の者はどうした? 姿が見えぬようだが――」 「殿!! お下がりください!!!」 不意に誰かが叫んだ。それと同時に。 「っ!? 何だ!?」 身動きが取れなくなる。 鎖だ。細い鎖が、俺の両腕と胴体に巻き付いている。 「なんて妖力だ! この者は……いえ、それは人の子ではありません!!」 「なっ……」 ここにきて漸く気付く。 俺はとんでもない思い違いをしていたみたいだ。 妖力とは、読んで字の如く妖怪の力。 人間が扱えるはずのない力なんだろう。 「俺はもう人間ですらないってことか」 乾いた笑みが零れた。 これはもういよいよ詰みだな。 この分だと人として生きていくのは難しい。 かと言って、妖怪と生きていくのも。 「っ!」 そうこうしている内に忍者が迫ってくる。 鋭い眼光。否が応でも悟ってしまった。 この人は本気だ。本気で俺のことを殺す気なんだって。 「……っ、…………」 声が出ない。ほんの少しも。 体も縮こまる一方で、頭も……ダメだ。何も思いつかない。 怖くて怖くて仕方がない。 助けて。必死に願っても、誰も助けてくれなくて。 御手洗(みたらい)、お前もこんな思いだったのか? それなのに俺は……っ。 「ごめん。~~っ、ごめんな――くぁっ!?」 「何っ!?」 体が吹き飛んだ。 突き飛ばされたのか? いや、違う。飛んでる……? 「よっ、妖狐だ!!」 まっ、マジで実在したのか!? 噂の妖狐様が俺を助けてくれた……? 「……うっ……ん?」 何だか明るい。これは月明かりか。 今なら妖狐の姿が見れるかも。 ……よし。思い切って目を開けてみる。 「あっ……」 その瞬間、俺は思わず見惚れてしまった。 目の前にいるその人があんまりにも綺麗だったから。 宝石みたいな金色の瞳。 満天の星空には、銀色の髪が散らばっていて。 「(テン)」 直後、体が揺れる。 何かに着地したみたいだ。 「おわっ!?」 ここは……木の上? 気絶しそうなくらい高い。 ってことは、足元のこれは枝か!? 超ぶっとい。縦十メートル、幅五メートルはありそうだ。 「危ないところだったね」 「っ! ははははっ、はい! ありがとうございました!」 「どういたしまして」 同じ言語っぽいな。 外来語を避けるようにすれば、ある程度は話せるか? 「あれ? 君は……人間?」 「っ!?」 「どうして妖力を? 君は半妖なのかな?」 答えようによっては殺される。そんな気がした。 慎重に言葉を選ばないと。 「ま、いいや。ひとまずこれを解こうか」 「えっ……?」 鎖が切れて落ちていった。けど、音は聞こえない。 それだけ高いところにいるってことだ。落ちたら死ぬ。確実に。 「よいしょっと――」 「おおおおっ!!? おろさないで!!!」 妖狐の着物を掴んだ。ちょうど襟の辺り。 よく見たら、白くて銀色がかったとても高そうな着物だ。 マズい! 離さなきゃ! そう思うのに手が動かなくて。 「すっ、すみませ――」 「いいよ。じゃあこのままで」 妖狐が笑う。ニカッと音が立ちそうなぐらい。 本物だと思ってしまった。 御手洗と同じだって。 「安心して。もう大丈夫だから」 妖狐が囁く。 俺の耳元でそっと優しく。 「あ……っ」 その時、ほろりと何かが零れ落ちた。涙だ。 妖狐のじゃない。俺のだ。 「いいよ。思いっきり泣いて」 騙されるな。コイツは妖怪なんだぞ。 気を許したら最後、殺されちゃうかもしれないのに。 「くっ……う……ぁ……っ」 気付けば俺は妖狐の胸に顔を埋めていた。 鼓動を感じる。これは妖狐の。 心臓もあるんだな。思えば体温も。 「…………」 妖狐は何も言わない。何も聞かない。 ただ黙って胸を貸してくれる。 「う……ひぐ……うぅ………~~っ……」 夜が更けていく。 俺のみっともない泣き声と共に。

ともだちにシェアしよう!