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04.契約成立
あれからどのぐらいの時間が経っただろう。気付けば俺は座ってた。妖狐に抱っこを……姫抱っこをされたままの状態で。
「っ!? ~~っ」
「落ち着いた?」
ああ、落ち着いたんだろうな。結果、今の俺は大パニックだ! とにかく近過ぎる!! うっかりチューしかねない距離……!!! 事故でハジメテを奪われるなんて、そんなの絶対にごめんだ。とっ、とにかく離れよう。今すぐ離れよう。まずはそこからだ。
「あっ、あの――」
「君、やっぱり人間だね」
「えっ?」
「妖力があるだけだ。あとは普通の人間と変わらない」
「ほっ、ほんとですか!?」
顎が震える。バカみたいにぷるぷると。良かった。俺、人間なんだ! 妖怪じゃないんだ!
「知らなかったの?」
「あ……すみません。俺、まだ転生してきたばっかで。自分のことは勿論、この世界のこともよく分かってなくて」
「別の世界から来たってこと?」
「……はい。信じてもらえないかもしれませんけど」
「いや、信じるよ。私もちっぽけだけど世界を創造しているから」
「っ! あっ、貴方も神様なんですか!?」
「いやいや、私はただの妖だよ」
違いが分からない。だけど……神様と同じことが出来るんだ、ただ者じゃないのは確かだろう。妖怪だけど神レベル。『神獣』ってとこか。味方になってくれたら心強いけど。
「行く宛てがないなら、私の里に来ない?」
「えっ?」
「いや、違うな。きちんとお願いするべきだね。こっちは打算ありきなんだから」
「と、言うと?」
「妖力を分けてほしいんだ。君のその膨大な妖力をほんの少しだけ」
膨大? 『妖力供給』ってスキルだからか? ダメだ。自分じゃ全然分からない。
「私が創造している世界はちっぽけだけど、それでも維持するのはそれなりに大変でね。ハッキリ言ってしんどいんだ。だけど、それでも守りたいと思ってる。私も含め、里のみんなには行く当てがないから」
「どうして?」
「『はみ出し者』なんだ。どうにも馴染めなくてね」
「……っ」
自然と過る。御手洗 の姿が。イジメられてる御手洗の姿が。
「私に出来ることなら何だってする。だから、お願い。君の力を貸して」
深く頭を下げてきた。必死だ。それだけヤバい状況にあるってことか。
「…………」
この話は本当なのか、それとも嘘なのか。1つ言えるのは、妖狐が『鑑定スキル』持ちであること。俺=人間と断言したあたり間違いないだろう。問題なのは見える範囲だ。もしも俺の全部を、それこそ過去まで見通せるのだとしたら嘘の可能性も出てくる。『仲間外れの妖』なんて欠片も存在していなくて、気付いたら妖狐の口の中……なんてオチなのかもしれない。
でも、それでもいいや。あっち側には戻らなかった。それだけでも前世 の俺からすれば大進歩。十分頑張ったって、そう思えるから。
「っ、分かりました。俺で良ければ喜んで」
「いいの!?」
「はい。ただ……ご存知の通り妖力は胸からしか出ないそうなので、その点だけあしからず――」
「ん?」
「えっ?」
妖狐……いや、妖狐さんの目が点になる。まさか知らないのか? 俺の全部を見通せるわけじゃないってこと?
「なぜ?」
「さっ、さぁ? 神様が……というか、くじ引きで決まったことなので」
「なるほど。神め。まったく腹立たしい限りだね」
妖狐さんの眉間に皺が寄る。本心なのかどうなのか、それは定かではないけど正直嬉しかった。
「君は立派な『守り手』だ。そう思ってもらえるよう、私なりに励ませてもらうよ。本当にありがとう」
「『守り手』……」
途端に頬が緩み出す。まだ何もしてないのに。ったく、浮かれ過ぎだっての。
「じゃ、行こう! って、言いたいところなんだけど……」
「なっ、何ですか?」
「ちょっと足りそうになくて……。早速で悪いんだけど、分けてもらえないかな?」
たぶん、いや確実に俺を助けたせいだ。思えば侍 達の気配は全然しないし、空から落ちてくる時もこんなデカい木は見えなかった。あの一瞬で相当遠くまで来たんだろう。
「はっ、はい! ただいま!!」
慌てて準備を進めていく。妖狐さんの胡坐 椅子に座ったままの状態で。ブレザー、ネクタイは木の上へ。Yシャツのボタンを1つ、2つと外していく。
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