5 / 48
04.契約成立
あれからどのぐらいの時間が経ったんだろう。
いつの間にやら俺は座っていた。
妖狐に『お姫様抱っこ』をされたままの状態で。
「っ!? ~~っ」
「落ち着いた?」
ああ、落ち着いたんだろうな。
結果、今の俺は大パニックだ!
とにかく近過ぎる! うっかりチューしかねない距離……!!!
事故でハジメテを奪われるなんて、そんなのまっぴらだ。
とっ、とにかく離れよう。今すぐ離れよう。まずはそこからだ。
「あっ、あの――」
「君、やっぱり人間だね。妖力があるだけだ。あとは普通の人間と変わらない」
「ほっ、ほんとですか!?」
顎が震える。バカみたいにぷるぷると。
良かった。俺、人間なんだ! 妖怪じゃないんだ!
「知らなかったの?」
「あ……すみません。俺、まだ転生してきたばっかで。自分のことは勿論、この世界のこともよく分かってなくて」
「別の世界から来たってこと?」
「……はい。信じてもらえないかもしれませんけど」
「いや、信じるよ。私もちっぽけだけど世界を創造しているから」
「っ! あっ、貴方も神様なんですか!?」
「いやいや、私はただの妖だよ」
違いが分からない。
だけど……神様と同じことが出来るんだ、ただ者じゃないのは確かだろう。
妖怪だけど神レベル。『神獣』ってとこか。
味方になってくれたら心強いけど。
「行く当てがないなら、私の里に来ない?」
「えっ?」
「いや、違うな。きちんとお願いするべきだね。こっちは打算ありきなんだから」
「……と、言うと?」
「妖力を分けてほしいんだ。君のその膨大な妖力をほんの少しだけ」
膨大? 『妖力供給』ってスキルだからか?
ダメだ。自分じゃ全然分からない。
「私が創造している世界はちっぽけだけど、それでも維持するのはそれなりに大変でね。ハッキリ言ってしんどいんだ。だけど、それでも守りたいと思ってる。私も含め、里のみんなには行く当てがないから」
「どうして?」
「『はみ出し者』なんだ。どうにも馴染めなくてね」
「……っ」
自然と過る。
御手洗の姿が。
イジメられて涙を浮かべる御手洗の姿が。
「私に出来ることなら何でもするよ。だから、お願い。君の力を貸して」
深く頭を下げてきた。必死だ。
それだけヤバい状況に、存続の危機にあるってことか。
「…………」
この話は本当なのか、それとも嘘なのか。
一つ言えるのは、妖狐が『鑑定スキル』的な能力を持ってるってことだろう。
俺=人間と断言したあたり、間違いない。
問題なのは見える範囲だ。
もしも俺の全部を、それこそ過去まで見通せるのだとしたら、嘘を言っている可能性も出てくる。
『仲間外れの妖怪』なんて欠片も存在していなくて、気付いたら妖狐の口の中……なんてことも。
でも、それでもいいや。
あっち側には戻らなかった。
逃げずにちゃんと守った。
それだけでも前世 の俺からすれば大進歩。
十分頑張ったって、そう思えるから。
「っ、分かりました。俺で良ければ喜んで」
「いいの!?」
「はい。ただ、ご存知の通り妖力は胸からしか出ないそうなので、その点だけあしからず――」
「ん?」
「えっ?」
妖狐……いや、妖狐さんの目が点になる。
まさか知らないのか?
俺の全部を見通せるわけじゃないってこと?
「なぜ?」
「さっ、さぁ? 神様が……というか、くじ引きで決まったことなので」
「なるほど。神の仕業か。まったく腹立たしい限りだね」
妖狐さんの眉間に皺が寄る。
本心なのかどうなのか、それは定かではないけど正直嬉しかった。
「君は立派な『守り手』だ。そう思ってもらえるよう、私なりに励ませてもらうよ。本当にありがとう」
『守り手』、か。途端に頬が緩み出す。
まだ何もしてないのに。ったく、浮かれ過ぎだっての。
「じゃ、行こう! と、言いたいところなんだけど……」
「なっ、何ですか?」
「ちょっと足りそうになくて……。早速で悪いんだけど、分けてもらえないかな?」
たぶん、いや確実に俺を助けたせいだ。
思えば侍達の気配は全然しないし、空から落ちてくる時もこんなデカい木は見えなかった。
あの一瞬で相当遠くまで来たんだろう。
「はっ、はい! ただいま!!」
慌てて準備を進めていく。
妖狐さんの胡坐椅子に座ったままの状態で。
ブレザー、ネクタイは木の上へ。
Yシャツは……脱がなくていいか。
白いインナーを摘まんで、ぐんっと捲し上げる。
ともだちにシェアしよう!

