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10.根性と労いと

椿(つばき)もニンゲンに命令してみたいですニャ!」  催促してくる。待ちきれないと言わんばかりに。正直キツい。でも、応えてあげたい。嬉しかったから。こうして絡んできてくれたこと、それ自体が。 「また別の機会にしようか。優太(ゆうた)はこの通りもうヘロヘロだから」 「いえ! その……簡単な命令なら何とか」 「優太……」 「やったー!! じゃあ、早速! 側転、側転、宙返りニャ!」  意気揚々と命令してきた。けど、俺の体はぴくりとも動かない。リカさんから支配権をもらう or 代わりに命令してもらう必要があるんだろうな。でも、。俺の体を気遣ってのことだ。凄くありがたい。ありがたいんだけど、やっぱ俺は……。 「まったく、アイツは何をやっとるんじゃ」 「ん?」  話声。これは……他の妖さん達の声か。 「六花(りっか)様のお手を煩わせるなんて」 「あんなんだから、いつまで経っても半人前なのよね」  里中がじっとりとした重たい空気に包まれていく。(あざけ)(わら)う声がやたらと大きく聞こえて。ああ、凄く嫌だ。 「優太?」  俺は空色のブレザーを脱ぎ捨てて、赤いネクタイを外した。そしてそのまま勢いよく上体を傾けて。 「う゛ぐ……!」  側転をした……つもりだけど、ちゃんと出来てたかな? 大分怪しい。やっぱ自力じゃ無理か。 「っ!」  椿ちゃんが笑ってる。驚いてるけど、笑ってて。 「うおぉぉおおお!!!」  力任せにもう一回転。そして。 「ぐっ! いっけええぇえ!!」  ガムシャラに地面を蹴って跳んだ。宙に浮いたところでぐっと体を丸める。 「う゛っ!? ~~っ、くお~~っ」  着地と同時に足裏に凄まじい衝撃&激痛が。こん棒か何かで殴られたみたいだ。でも、何とか倒れずに済んだぞ。 「はぁ……はぁ……はぁ……っ!」  肩を叩かれた。リカさんだ。苦笑いだけど凄く嬉しそうで。 「えっ? あっ……」  汗を拭ってくれる。使っているのは例の肉球柄の手拭いだ。 「もっ、もういいですから」 「いいから、いいから」 「……っ」  恥ずかしくて、嬉しくて、俺は……何も言えなくなる。 「ありがとニャ」 「椿ちゃん……」  ははっ、バレてら。居た堪れないけど、誇らしくもある。頑張った甲斐があったな、なんて。 「わたくしからも、心より感謝申し上げます」 「わたくし? あっ!」  糸目の三毛猫だ。椿ちゃんと同じ桃色の着物+前掛け姿。背の高さも同じぐらいだ。たぶん90センチ前後だろうと思う。ただ、年齢には大分差が。この猫さんの方がずっと年上に見える。体もどっしり&ふっくらとしていて中々の貫禄だ。 「お初にお目にかかります。わたくし家事全般を統括しております(うめ)と申します」 「こっ、これはどうもご丁寧に……。なっ、仲里(なかざと) 優太(ゆうた)」 「ほっほっほっ、ほんに可愛らしいお方ですね」 「うん。三つ目兎みたいだよね」 「うっ、うさ?」 「お食事とお風呂の準備が出来ております。どうぞこちらへ」 「っ! ありがとうございます!」  大五郎(だいごろう)さんは……来ないみたいだ。俺にひと睨み浴びせると、車輪の体をゴロゴロと転がして何処かに行ってしまった。 「そのうち仲良くなれるよ。焦らず、ゆっくりいこう」 「……そうですね」  リカさんからブレザーとネクタイを受け取って、梅さんの後についていく。 「お給仕は我々猫股が、農業は主に河童(かっぱ)達が担っておりまして」 「…………」  道中、梅さんが色々と説明してくれたけどまるで頭に入ってこなかった。目の前でふよふよと揺れるそれに、梅さんの尻尾に目を奪われてしまって。 「さっ、3本♡♡♡」  そう。黒×オレンジのマーブルな尻尾が3本も。夢か!? って疑っちゃうレベルで幸福(ハッピー)な、それでいて物凄く悩ましい光景だ。 「うぐ……ふぅ……うぅ……!!」  耐えろ、俺!!!! 耐えるんだ、俺!!!! 「ほっほっほっ、優太様はほんに尻尾がお好きなのですね~」 「っ!!?」 「……梅」 「すみません! その……」  我ながら苦しい言い訳だ。ああ゛っ、穴があったら入りたい……。 「着きましてございます」 「っ! ここが」  目の前に立つ家を見て、俺は思わず息を呑んだ。 

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