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11.リカさんの尻尾が一番です

 リカさんのお家は端的に言えば神社の本殿風の建物だった。屋根には黒い瓦がびっしり。おまけに床も高くて、出入口には短い階段が設けられていた。 「立派なお家ですね~」 「落ち着かないよね?」 「え? あっ、はい……」  咄嗟(とっさ)に肯定すると、リカさんは(すこぶ)る嬉しそうな顔に。ふふん♪と得意気な顔で鼻を鳴らし始めた。なっ、何故? 「(うめ)? どうだろう? これを機に、私も平屋に住むというのは――」 「何卒ご容赦を」 「ははっ、だよね~」 「?」  何で平屋NGなんだろう? 里長だからかな? まぁ、みんなにとっても大切な恩人なんだろうから敬うのは当然か。 「中をご案内致します。どうぞこちらへ」  梅さんに促されるまま靴を脱いで家の中へ。玄関に入って正面がお座敷。廊下を進んで右手が寝室、左手が庭。廊下の更に奥に進むと台所で、その更に奥にはお風呂場があった。  どの部屋も派手さはないけど上質な感じで。例えるのならそう『銀閣寺』みたいな。所謂(いわゆる)『侘び寂び』ってやつだな。これなら超★庶民な俺でも暮らしていけそうだ。ありがたや、ありがたや。 「どうぞごゆるりとお過ごしくださいませ」  ルームツアー終了後は、リカさんとお座敷でを。その後は代わりばんこにお風呂に入って、夕方までを取ることになった。 「近っ」  掛布団が重なり合ってる。(ふすま)~布団まではまだ半畳ぐらい余裕があるけど……離したりしたら、気を悪くしちゃうかな? 「疲れたでしょ。色々と無理をさせてごめんね」 「滅相もない! むしろすみません。色々と至らなくて」  謝りながら布団に入る。結局、布団はずらせなかった。こうなったらもう早く寝よう。そうしたらもう何も気にならない。近かろうが遠かろうが関係ない。 「よっと」  それにしても浴衣で寝るのなんていつぶりだろう? (はだ)けないといいけど。俺は白い浴衣を一瞥(いちべつ)しつつ枕に頭を預けた。幸いなことに、枕の形は元いた世界のものとほとんど変わらなかった。中身は……硬いビーズ? いや、小豆(あずき)か。ほんのりとだけど甘い香りがする。 「ねえ、優太」 「はっ、はい」 「私はね? その……本当はね?」  何だろう? 妙にためるな。 「ははっ、どうしたんですか?」  あっ、布団に入っちゃった。話すの止めたのかな。気になるけど、まぁいいか。 「ふぁ……」  何だか眠くなってきた。もう寝よう。 「おやすみなさ――」 「本当はね、4本なんだ」 「ふえ? ……っ!?」  白くて長いもふもふが、布団や畳の上に広がっていく。全部で1、2、3、……4本。よく見ると根っこの部分で繋がり合ってる。何だかお花みたいだ。 「見ての通り物凄くかさばるから、それで普段は1本にしてるんだ。にあたるから、本当はダメなんだけど」  リカさんには悪いけど、話がまるで入ってこない。何で今、俺に、その話を? まさか……ヤキモチ? 俺がを……梅さんの尻尾にもhshsしちゃったから……? 「……………………どうかな?」  リカさんと目が合う。その目は物凄く不安げで、寂しげで。 「りっ、リカさんの尻尾が一番です!」  気付けばそう答えてた。勿論本心だ。嘘なんかじゃ……ない! 「へへっ、ありがとう」 「っ!」  大きな尻尾が右に左に大きく揺れ出す。嬉しいのか。ヤバい。可愛い。カッコイイのに可愛い。 「ははっ、ヤダな。何だかその……ごめんね」 「あっ……い……え……」  ダメだ。まだまだ話したいことがたくさんあるのに(まぶた)が重たくて仕方がない。くそっ、こんな時に。 「おやすみ、優太。良い夢を」  落ちていく。深い深い眠りの水底へと。またいつかモフらせてもらえたりして。そんな淡い期待を胸に抱きながら。

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