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12.煩悩を捨てろ!

「ん……ここ……どこ……?」  目を覚ますとそこには見慣れない景色が広がっていた。天井は木製。床は畳だ。俺、旅行してたんだっけ? 寝ぼけ(まなこ)を擦りながら光が差し込む方へ。ハイハイで進んで、そのまますっと障子を開ける。 「っ!!?」  視界がもふもふで埋め尽くされた。猫だ。真ん丸くて、三毛で、で……。 「おはようございます、優太(ゆうた)様」 「しゃっしゃしゃしゃっ、喋――」 「起き抜けのところ大変申し訳ないのですが、ご助力を賜りたく……」 「おっ、俺に? ……あっ!」  思い出した! 俺、転生したんだ。神様から変なスキルを貰って、妖狐のリカさんに拾われて……それで授乳、じゃなくて……そう! 『妖力供給係』になったんだ! 「優太様?」 「あっ! はい! 畏まりました!」 「ありがとうございます。それではご支度を」  (うめ)さんに手伝ってもらいながら身支度を整えていく。着せてもらったのはクリーム色の着物と緑色の羽織だ。どっちも絹製。鮮やかな上に光沢もある。素人目でも分かるぞ。これ絶対に高いやつだ。汚さないようにしないと。 「では、ご案内を致します」 「よっ、よろしくお願いします!」  向かう先は里の中にある小さな山だ。これから夜になるのに!? と思いきや、時刻はなんと(たつ)の刻(朝の8時ごろ)。あれから丸一日経っているのだそうだ。夕飯すっぽかし&大事な初日を寝潰すとか。ああ、俺ってほんとダメダメだな……。 「六花(りっか)様は山頂の小屋でお休みになられています」 「休む?」 「倒れられたのです。を起こしてしまわれて」 「っ!? マジっすか!?」  道中、梅さんから説明を受けた。倒れた原因は結界のアプデ。里のみんなの安全をより確かなものにするために、ちょっと……いや、大分無理をしたのだそうだ。 「分かりました。全力で励ませていただきますね」 「申し訳ございません。前回提供いただいてから間もないというのに」 「いえ! 俺は全然。それに俺も守っていただいている立場なので」  そう。これは恩返しだ。余計なことは考える、な――。 『あっ♡ 妖狐、さん……♡♡♡』 「ふぉ~っ!!!」 「?」  蘇る。甘い甘い快感の記憶が。~~っ、こんなんじゃダメだ。気をしっかり持て!!! 「優太様」 「……あっ! はい!」 「申し訳ございません。わたくしがご案内出来るのはここまでです」 「えっ? どうして?」  目の前にある山道はぐーーんと真っ直ぐに伸びている。頂上(ゴール)はまだ先っぽいけど……何か用でもあるのかな? 「(おきて)なのです。山頂には立ち入ってはならぬと、固く禁じられておりまして」 「それを決めたのって……」 「はい、六花様でございます」 「どうしてまた?」 「心を砕いておいでなのです。皆が心穏やかに暮らせるように」 「そんなっ! そんなのダメでしょ。いくら何でも自己犠牲が過ぎるっていうか……」 「ええ。里の者達も心を痛めております」 「っ、リカさんはどうしてそうも頑ななんでしょうか?」 「思うに、甘え方を忘れられてしまわれたのではないかと。長く、それはもう長いこと責任あるお立場であらせられたので」  これは手ごわいな。だけど、勝算はある。 「俺、ちょっと頑張ってみますね。リカさんの意識を変えられるように」  実際問題、リカさんは俺を頼らざるを得ない。だから、俺との関係を通じて思い出してもらえたらと思うんだ。人を頼ることを。頼られると相手も嬉しいんだってことを。 「お心遣い痛み入ります」 「いっ、いえ! そんな!」  また1つ大きな目標が出来た。これは恩返しだ。だから……俺、分かってるな? バカみたいに喘いでいる場合じゃないぞ。しっかり切り替えてけ。 「ここから先は一本道。四半刻(しはんどき)ほど歩けば辿り着けるはずです」 「分かりました! ご案内ありがとうございました」 「どうぞお気をつけて」  梅さんはまたにこやかに笑って頭を下げた。俺も一礼して山頂に向かう。

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