18 / 48

16.ファーストキス(☆)

「足元、気を付けてね」 「……はっ、はい……」 リカさんと一緒に土手みたいなところを登っていく。 あれから十分近く経つけど、手は依然として繋がり合ったままだ。 好奇と驚きに満ち満ちた視線を喰らいまくったせいで、俺の精神は最早瀕死状態。 対照的に、リカさんの方は腹が立つぐらいケロっとしてて。 手繋ぎウォーク=牽制のつもりなのかな? ははっ、まさかな……? 「優太(ゆうた)、ほらっ見て」 「っ! うわぁ!」 土手を登り切ると、そこには水田が広がっていた。 猫草みたいな稲が、青い水鏡の上で小さく揺れている。 いや、でもちょっと待てよ? 「さっき精米してましたよね?」 「実は天候も土壌も私の方で制御していてね。年中お米や野菜を育てられるんだ」 「なっ、なるほど! 飢饉知らずってわけですね!」 だけど、リカさんにかかる負担は相当なもんなんだろうな。 しっかりとお務めを果たしていかないと。 「さてと」 手が離れた。今度は何をする気だ? 「よいしょっと」 芝生の上にごろーんと寝転び出した。 真っ白な着物に、紺色の羽織。 見るからに上等な着物を着てるっていうのに、まるでお構いなしだ。 「優太もやってごらんよ」 「でも……」 「気持ちいいよ」 頭の上にはパラソルみたいな大きな木が。 おまけに、穏やかな風も吹いてきている。 うん。これは確かに気持ちいいだろうな。 「よしっ」 思い切って、リカさんの隣に寝転んでみる。 借り物の高そうな着物のままで。 「…………」 鼻の中が草の香りでいっぱいになる。 芝は思っていた以上にやわらかくて、何だか包まれているみたいだ。 見上げれば、キラキラとした宝石みたいな木漏れ日が差し込んできている。 「サイコー」 「でしょ?」 「こんなの久々だ。マジでいつ以来だろう?」 何にも縛られず、ただぼんやりと過ごす。 時間の無駄遣いとも取れるけど、それだけに堪らなく贅沢だなとも思う。 「優太は元いた世界でも頑張り屋さんだったんだね」 「迎合してただけですよ。仲間外れにされたくなくて、学友を見捨てたこともあります」 「そう。だから、君は一生懸命なんだね」 「空回ってばっかですけどね」 「そんなことない。君は立派だよ。やり直しの機会を与えられたところで、誰しもが君のように熱心に取り組めるわけじゃないもの」 不意に手を握られた。寝転んだままの状態で。 意図が分からなくて、リカさんの方に目を向けたら――目が離せなくなった。 またあの目だ。背中にぞくりとくるようなあの目。 「あっ」 顔を近付けてくる。 リカさんの吐息が、俺の頬や唇を撫でていって。 「っ! ちょっ、ちょっと待って!」 「ん?」 「なっ、何で急に? さっきはシなかったのに」 「あの時は熱に浮かされてたし、それに……優太にもまだ迷いがあったでしょ?」 「っ!? リカさん、心も読めるんですか!?」 「残念だけど君のはまったく。心も記憶もまるで読めない。十中八九、神が制限をかけているんだろうね」 「ってことはつまり……俺が自爆したってこと?」 「まぁ、そうなるかな?」 もう色々とだだ漏れだったってことか。 ううっ……やっ、ヤバい。マジで死ぬ。恥ずし過ぎて死ねる!!! 「あわあわわっ……あっ!? ちょっ、待って!」 俺の腕がどんどん縮んでく。 リカさんの胸にぐっぐっと押されて。 「ふふっ、まだ何か?」 「リカさんは俺のことちゃんと……~~っ、どっ、同情なら止してください。俺はその……本気なので!!」 「同情なんかじゃないよ」 顔を包まれる。 両手で、そっと優しく。 「君が好きだ。ずっと私だけを見ていてほしい」 真剣なリカさんの顔。 まさに美の暴力だ。息が出来ない。 いつものへらっとした笑顔が抜けると、こうも危険なのか。 「もしかして、まだ疑ってる? ふふっ、なら証明してあげる。君が呆れて、うんざりするぐらい」 「っ!」 俺がリカさんに見惚れてぽや~♡♡♡となっているうちに、唇が重なった。 あったかい。やわらかい。これがキスか。 「んンっ!」 俺は慌てて目を閉じる。 その直後、はむはむしてきた。 下唇、上唇の順で食んでちゅーっと吸い付いてくる。 「ふっ♡ ……んんっ……♡」 キスが止まない。 俺はただされるがままで。 ~~っ、俺も! 俺もちゃんと応えたい。 「んっ、んっ、んぅ……!」 「んっ、……ふふっ……」 固く目を瞑ったまま、リカさんの真似をしてみる。 食んだり、舐めたり、吸い付いてみたり。 口のまわりはもうベチャベチャだ。 重なり合う度に はぷっ、くちゅっ、とやらしい音が立つ。 エロい。ムズムズする。 何だか耳まで犯されていくみたいで。 ヤバい。ヤバいぞ。これ以上やったら、俺……っ。 「んんっ、んっ!」 俺は堪らずリカさんの胸をノックした。 すると意外にもあっさりと解放してくれる。 「けほっ! ゴホッ!」 顔を俯かせて咳込む。 くっ、苦しい。これやっぱ現実なのか。 どうしよう。俺、リカさんとキスしちゃった。 それもあんなにたくさん。 「抱きたい」 「へっ?」 囁かれた。 顔なんて絶対に見れないと思ってたのに、気付けばリカさんの方を向いてて。 「……っ」 途端に魅せられていく。 熱を帯びた金色の瞳に。

ともだちにシェアしよう!