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22.リカぎつねさん

「さっ、里の住人の方ですか?」 「ぎゃう!」  銀狐さんが吠えた。怒ってはいないみたいだ。大きな口を薄っすら開けて、金色の目をキラキラさせてる。言葉通じてるのかな? どっちにしろこのまま見つめ合ってても(らち)があかない。ダメもとで話しかけてみるか。 「リカさ……六花(りっか)様に何かご用ですか? それとも俺に何か――」 「うぅ……っ、にゃーーう」 「にゃう!?」  狐って犬科だよな? なのに、そんな猫みたいに♡♡♡ 「にゃーぅ、にゃーぅ……」  尻尾を振ってる。ふさっ、ふさっ、ふさっ。軽そうだけどかなり太い。……あれ? よく見たら1本じゃないかも? 2、3、4。 「え゛っ!? まっ、まさか……リカさん?」 「ぎゃう!!」  『そう!!』と言わんばかりに尻尾をパタパタと振り出す。可愛い♡ ……じゃなくて!!! 「どうして狐の姿に!? 具合でも悪いんですか!? それとも何処か怪我して……」  に駆け寄って様子を窺う。良かった。怪我はしていないみたいだ。でも、だったらどうして? 「わっ!?」  膝の上に前足を乗っけてきた。割と重い。肉球も硬めだ。(たくま)しいな。可愛いけど強い。強いけど可愛い。 「うおっ!?」  今度は顔に鼻を押し付けてきた。これって鼻キス? ってことは、甘えてるってことでいいのか? いいんだよな? 相変わらず尻尾はパタパタさせてるし。 「……っ」  モフりますよ?? いいんですね??? 俺は重たくなった唾を呑み込みつつ、リカぎつねさんの右頬を撫でた。 「んん゛♡」 「ふぉっ♡」  リカぎつねさんが喉を鳴らした。気持ちよさそうだ。目はとろ~んと、耳はぺたーっと横になってて。かっ…………………………………………可愛い。可愛すぎる!!!!!!!!! 「きゃぅ! ぅ……みゃう……♡」  撫でまくる。タガが外れたみたいに。もふもふ、もふもふ……と。 「くぅ♡ にゃう~~♡」  耳裏がいいみたいだ。大きな耳を根元から先の方までぐーっと擦り上げると、口をぱかぁ~と開けて目をきゅーっと閉じていく。 「にゃう~♡」  堪んねぇ。 「っ! ぎゃう♡」  気付けば俺はダイブしていた。リカぎつねさんの額に。すりすりと自分の額を擦り付けていく。ああっ♡ さらさらだぁ~。それにあったかい♡♡♡ 俺はあまりの心地よさに目を閉じた。すんすんと鼻を鳴らせば、干したての布団みたいな香りがして。 「あぁ、リカぎつねさん♡♡♡」 「ふふふっ……はーい♪」 「……? …………………………………………っ!!!??」  慌てて目を見開く。そこには見慣れた人型のリカさんの姿が。金色の瞳が優しく、それでいて悪戯っぽく微笑みかけてくる。 「あっ、あ……」  頭の中は真っ白。喉は干上がっていく。ヤバい。ヤバい。ヤバい。俺は、俺は何ってことを!!!! 「は良かったな~」 「!!!!!! それはその……わ゛っ!?」  膝が重い。なっ、何だ!? 「へへへっ♪」  枕してる。俺の膝の上に。裸!? あ、いや。ふつーに服着てた。さっきと同じ白い着物に青い羽織姿だ。良かった。いや、良くない。逃げの手を封じられたんだぞ。どっ、どうしよう。また好きが、好きが暴走する!!! 「ねえ、優太(ゆうた)」 「はっ、はひ!!!」 「狐じゃないと、ダメ?」 「へっ?」  問いかけてくる。甘えるように可愛らしく。狐語ならたぶん『にゃーん♡』って言ってるところで。 「あっ、……ああああっ……あ……」 「……やっぱ……ダメ?」 「だだだだだっ!!! ダメ、じゃないですぅ!!!!!!」  色んなもんが吹っ飛んでいった。もう破れかぶれだ!!!! 「そう? それじゃあ」  リカさんがすっと目を閉じた。もう後には引けない。撫でるんだ。頭を。人型のリカさんの頭を。 「……っ」  でも、どうやって? 狐の時みたいに? それとも恋人らしく? 恋人らしくってどんなふうに? 優しく? 色っぽく? ………………分からない。分からないけど、やるしかない。 「しっ、失礼します」 「うん」  とにかくまずは触れてみよう。緊張でみっともなく震える手が、リカさんの三角耳に触れた。

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