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23.甘えたなリカさん
「……っ」
狐耳に触れると、リカさんの体が少し強張ったのが分かった。俺の手の平の中で、薄くてやわらかい耳がパタッパタッと跳ねる。当たり前だけど狐の時よりも大きい。俺の手×1.5倍ぐらいの大きさはある。ひとまず狐の時にウケが良かった耳裏を擦ってみるか。
「ふふっ、擽 ったい」
言いながら右に左に体をくねらせる。銀糸みたいな細くて綺麗な髪が、俺の膝の上から零れ落ちていった。狐の時ほど気持ちよくはないのかな? いや、さっきのも単に擽ったかっただけか?
「にゃっ、にゃーん♡」
「ふほっ!?」
あまりの衝撃に手を止める。人型リカさんからの「にゃーん」だと!? はっ、破壊力が半端ない。頬が緩んで顔が熱くなっていく。ヤバい!! ヤバい!!! もう一回聞きたい!!!
「にゃ…………~~っ、ごっ、ごめん……っ」
顔を背けた。手で口元を覆ってる。金色の瞳は潤んで、目尻のあたりはほんのりと赤くなってて。
「ははっ、今更だよね? 何を恥ずかしがってるんだか……」
「あっ」
ここにきて漸く合点がいった。そうか。これはリカさんが望んだことじゃない。俺のせいなんだ。俺が変に避けたりしたから。
「すっ、すみません! 俺が至らないばっかりにこんなことさせちゃって」
「そんな。優太 が謝ることじゃ――」
「あの! 俺っ、リカさんのことが嫌いになったり、その……セックスしたことを後悔してるわけじゃないんです」
リカさんの目が真ん丸になった。途端に臆病風が吹き始めるけど、踏ん張って話を続ける。
「言い訳がましいですけど、俺、恋人が出来たのはこれが初めてで。この好きをどうコントロ……制御すればいいのか分からなくて――」
「そう。好き過ぎたの」
リカさんが笑った。俺の頭をそっと撫でるように。
「……っ」
目尻が熱くなる。バカ。泣くな、俺。
「私の方こそごめんね。『みんなにはまだ内緒ね』なんて言ったりしたから、余計に混乱させちゃったよね」
「いっ、いえ! それはその……色々とご事情があるかと思いますので」
「面倒かけてごめんね」
「滅相もない! その……とっ、とにかくすみませんでした。もう大丈夫なので、いつもの調子に――」
「いやだ」
「……はい?」
「実を言うとね、優太にその……甘えたかったんだ。だから、むしろ有難かったというか」
「リカさんが、俺に?」
「……幻滅した?」
「まさか! むしろその逆です!」
何でもかんでも抱え込みがちなリカさんが、こうして自分を解放しつつある。その事実が堪らなく嬉しくて。
「甘えてください! 俺で良ければ好きなだけ!!」
「……本当に?」
「はい!!!」
「本当の本当に?」
「勿論ですよ」
リカさんの額に手を置いた。そうしたら、リカさんの顎 に力が籠って。
「君には敵わないな」
リカさんは言った。酷くか細い声で。俺もつられて泣きそうになった。ああ、リカさんもしんどかったんだな。
「優太」
「はい」
「大好き」
ぎゅっと抱き付いてきた。俺のお腹にリカさんの顔が埋まる。変わらずドキドキする。好きの気持ちが暴走しかけるけど、何とか抑え込むことが出来た。応えたいと思ったから。リカさんのこの気持ちに。
「俺も大好きですよ」
リカさんが深く息をついた。力もどんどん抜けていく。いい感じだ。でも、まだまだ。もっともっと甘えて欲しい。どうしたらいいかな? ……あっ! そうだ!
「良かったら横になりませんか?」
「えっ?」
俺の提案を耳にしたリカさんは、思わずといった具合に顔を上げて……俺の真意を確かめるようにじーっと見つめてきた。
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