26 / 48
23.甘えたなリカさん
狐耳に触れると、リカさんの体が少し強張ったのが分かった。
俺の手の平の中で、薄くてやわらかい耳がパタッパタッと跳ねている。
当たり前だけど、狐の時よりも大きい。
俺の手の一・五倍はあるかな。
ひとまず、狐の時にウケが良かった耳裏を擦ってみるか。
「あ~……極楽ぅ~……」
いいみたいだ。狐の時みたいに口をぱかぁ~と開けて、目をきゅーっと閉じている。
俺、もしかしなくてもゴットハンド……?
調子付いて、耳の根元から先の方までぐーっと擦り上げると、リカさんの口から「あっ♡」と悩まし気な声が上がった。
くっそ叡智だ。だっ、ダメだ。堪えろ、俺!
リカさんのお顔の横には、俺の愚息が……!
「やっぱり、狐の姿じゃないと興が乗らない?」
「いっ、いや! そういうわけじゃ――」
「にゃっ、にゃーん♡」
「ふほっ!?」
あまりの衝撃に手を止める。
人型リカさんからの「にゃーん」だと!?
はっ、破壊力が半端ない。頬が緩んで顔が熱くなっていく。
ヤバい!! ヤバい!!! もう一回聞きたい!!!
「にゃ…………~~っ、ごっ、ごめん……っ」
顔を背けた。手で口元を覆ってる。
金色の瞳は潤んで、目尻のあたりはほんのり赤くなっていて。
「ははっ、今更だよね? 何を恥ずかしがってるんだか……」
「あっ」
ここにきて漸く合点がいった。
そうか。これはリカさんが望んだことじゃない。
俺がテンパってたから、手を差し伸べてくれたんだ。
「ごっ、ごめんなさい! 俺が至らないばっかりに、こんなことさせちゃって」
「そんな。優太 が謝ることじゃ――」
「本当にすみませんでした。俺……恋人が出来たのはこれが初めてで。この好きをどうコントロ……制御すればいいのか、分からなくて――」
「そう。好き過ぎたの」
リカさんが笑った。
俺の頭を撫でるように、そっと優しく。
「……っ」
目頭が熱くなる。
バカ。泣くな、俺。
「私の方こそごめんね。『みんなにはまだ内緒ね』なんて言ったりしたから、余計に混乱させちゃったよね」
「いっ、いえ! それはその……色々とご事情があるかと思いますので」
「面倒をかけてごめんね」
「滅相もない! その……とっ、とにかくすみませんでした。もう大丈夫なので、いつもの調子に――」
「イヤだ」
「……はい?」
イヤだ?
今、嫌だって言ったのか?
リカさんの薄い唇が波打つ。
耳はぺたーっと平らに。
手元では白い羽織紐をくるくる、にぎにぎしている。
「実を言うとね、こんなふうにその……優太に甘えてみたかったんだ」
「リカさんが、俺に?」
「……幻滅した?」
「まさか! むしろその逆ですよ!」
本心だ。メチャメチャ嬉しい。
だって、あのリカさんが。
自己犠牲の塊みたいなあのリカさんが、俺を頼ってくれたんだぞ。
嬉しくないわけがない!
「甘えてください! 俺で良ければ好きなだけ!!」
「……本当に?」
「はい!!!」
「本当の本当に?」
「勿論ですよ!!!」
「ん……」
リカさんは寝ぼけた子供みたいな覚束ない表情を浮かべると、そのままぎゅっと抱き付いてきた。
俺のお腹にリカさんの顔が埋まる。
変わらずドキドキする。
好きの気持ちが暴走しかけるけど、何とか抑え込むことが出来た。
応えたいと思ったからだ。リカさんのこの気持ちに。
「……優太」
「はい」
「大好き」
「俺も大好きですよ」
リカさんの頭を撫でていく。
今度はマッサージ的な感じじゃなくて、小さな子供を寝かしつけるように。
もっともっと安らいで欲しい。
他に何か、俺に出来ることはないかな。
「あ、そうだ! 良かったら横になりませんか?」
「えっ?」
リカさんが思わずといった具合に顔を上げる。
そんで、じーっと見つめてきた。俺の真意を確かめるように。
ともだちにシェアしよう!

