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27.披露宴

 女中猫又’sが、テキパキと大皿を並べていく。ゲストが多いからか、テーブルは出さずに畳の上に直置きだ。列席者のみんなは(おの)ずと左右に分かれる形に。一部縁側に出たりと、さっきよりもカジュアルな感じで座り出した。  お料理はお刺身、焼き魚、天ぷら、煮物、お蕎麦、赤飯……と、数えるのも億劫になるぐらい、たくさんの種類がある。 「退くニャ!」   「危ないニャっ!!」  巨大な大皿が到着した。猫又4人がかりで運ばれてきたその大皿の上には、(うずたか)く積み上げられた『いなり寿司』が。油揚げと言えば狐。まっ、まさか!!! 「いなり、お好きなんですか?」 「大好き♡」 「はぅあっっっっ♡♡♡」 「?」  ド定番! なんだけど、無性に萌えた! はっ、早く見たい。リカさんがおいなりさんを食べているところを!!! 「結婚おめでとー!」 「おめでとうございます!」  黒猫又の椿(つばき)ちゃんと、キジトラ猫又の皐月(さつき)ちゃんが、それぞれ1枚ずつ大皿を持って来てくれた。服装の関係で動きにくい俺達のために、料理を取り分けてきてくれたみたいだ。 「ありがとう。うわぁ~、美味しそう」 「当たり前ニャ! 椿が腕によりをかけて作ったんニャからニャ!」 「ふふっ、椿ちゃんは摘まみ食いでお忙しそうでしたが?」 「ニャニャ!? んんんっ、そんなことないニャ! 椿だって酢飯を扇いだり、扇いだり、とにかく頑張ったニャ!」 「「はいはい」」 「ムニャーーー!!!」  盛り上がる俺達を他所に、リカさんは いなり寿司 をパクり。小さい口に無理矢理に押し込むようにして頬張った。さぞ美味しかったのでしょう。きゅっと目を(つぶ)って肩を(すく)ませております。  あ、また一口で。唇をぺろりと舐めて、また一口で。いやいや、もういなりしか見えてないじゃん。いなりに夢中じゃん。尻尾までパタパタさせちゃって――あぁ゛!!! ワイの旦那、可愛過ぎるんやが……。 「にしてもあれだニャ~、椿は言うなれば2人の『仲人』だニャ」 「んぇ?」 「あの『命令ごっこ』をきっかけに、2人はイイ感じになったんニャろ?」  そうだったかな? 厳密に言えばその夜。リカさんが(うめ)さんに嫉妬して『本当はね、(私の尻尾は)4本なんだ』って、俺を誘惑(←)してきた時からなんじゃ? 「何ニャ!? 異論でもあるニャ!?」 「っ!? いやいや! 椿様の仰る通りでございます! 貴方様のアシストがなければ、俺は常盤(ときわ) 優太にはなれませんでした!」 「ふふっ、常盤 優太は良かったなぁ~」 「えっ? リカさんの苗字って『常盤』じゃないんですか?」 「それは私の古い名でね。出奔してるから家名はないんだ」 「出奔!?」 「優太様、ご存知なかったのですか……?」 「あっ、あい……」 「ふっふっふ! 聞いて驚くニャ? 六花(りっか)様は元は妖狐の国・雨司(あまつかさ)の王太子。つまりは次期国王だったんだニャー!」 「い゛え゛ぇええ゛え!!!??」  上流階級出身だろうとは思ってたけど、まさかプリンス様だったとは!!! みんなが萎縮するわけだ。平屋で同居なんて(もっ)ての(ほか)だよな。 「古い話だよ。今ではもう弟が代わりを務めてくれているから」  なっ、なるほど。なら実家に連れ戻されることもないし、結婚相手が人間の俺でも問題ないってことなのかな? 「私はもう六花だよ」  ぶっちゃけ色々気になるけど……リカさん本人が『古い話』って言ってるんだ。俺の方からは踏み込まないようにしよう。 「そんなごとよ゛り、……ひぐっ! 六花様ァ! お子は? 今晩からお作りになるのですかぁ~?」  絡んできたのは進行役を務めてくれた唐笠小僧(からかさこぞう)吉兵衛(きちべい)さんだ。これは相当酔ってるな。まだ会が始まって間もないのに。 「ど~~なんですかっ!?」 「あの……すみません。俺はこの通り男なんで子供は――」 「天狐(てんこ)サマならば~、ひっく! ニンゲンの性別を変えるなど~、朝飯前にございましょ~?」 「まっ!?」 「「「ニャにぃ!?」」」  俺とみんなの視線がリカさんに集中する。 「…………」 「「「…………」」」 「…………っ」  リカさんはいなりを咥えたまま、つーっと目を逸らした。これはガチだ。ガチなんだ……! 「やったーー!! 子狐ニャー!」  女子を中心にはしゃぎ出す。そうか。そうだよな。この里には子供がいないから。 「……っ」  正直抵抗がないと言えば嘘になる。でも、頑張りたい。容易に想像がついたからだ。賑やかで楽しい毎日が。この里でならきっとその子を幸せに出来るはずだ。 「っ、あのリカさん――」 「ごめんね。今はまだ子供は……。優太と2人で過ごす時間を大切にしたいんだ」 「えっ?」 「「「ニャビーーン!!?」」」 「聞いたかい? やっぱ色男は違うねぇ~」 「面ァ関係ねぇだろが!!」  リカさんはぎこちなく笑いながら、みんなに向かってもう一度「ごめんね」と言って頭を下げた。  実際のところどうなんだろう? リカさんは俺との子供を望んでる? それとも望んでない? 気になるけど、今ここで聞くのは野暮だよな。折を見て2人きりの時にでも聞いてみるとしよう。

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