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36.裏切り(☆)
「さぁ、かけてかけて」
ここは俺達の家の客間。結婚式&披露宴をした所だ。
横長な部屋でトータル三十畳はある。
そんな部屋の前方付近に、向かい合わせで腰掛けていく。
廊下側にリカさんと俺。
反対側に薫 さん、樹月 さん、桂 さんの順で。
そのあと直ぐに、女中猫又ズがせっせとお膳を運んできてくれた。
盛り付けられているのは、お酒とおつまみ(湯葉とか田作りとか)。
因みに、俺のお膳にのっているのはお茶と羊羹だ。
この世界では十五歳ぐらいから呑んでいいことになっているらしいけど、どうにも気が引けて飲酒は控えるようにしていた。
「…………」
俺は手持ち無沙汰に湯呑を回す。
仲良くなるチャンス! 絶対にものにしてやる! なんて意気込んではみたものの、これといったアクションを取れずにいる。
だけど、焦りは禁物だ。
冷静に、確実にチャンスを掴むんだ。
落ち着け、落ち着け。
小さく咳払いをしてお茶を啜る。
美味い。自然と頬が緩んでほっと息をつく。
「愛らしいお方だ。まさに兎のようですね」
「……ん?」
桂さんは――俺を見ていた。
まっ、マジか。ストライクゾーン広過ぎだろ。
「桂? 優太 に手を出したら、即刻追放だからね」
ヒェッ! 笑顔なのに圧が半端ない。
でも、嬉しいな……なんて。へへっ。
「これは手厳しい。ですが――」
リカさんと桂さんが、俺を巡って舌戦を繰り広げていく。
リアクションに困る、なんて思っていたら、樹月さんが薫さんに耳打ちをし出した。
薫さんは小さく頷くと、徐に立ち上がる。
手には茶色い徳利を持っていた。
「兄上、お注ぎしますよ」
「えっ!? あ、ありがと」
薫さんはリカさんと俺の間へ。
そのままお酌をし始める。
物凄くスムーズで手慣れた感じだ。
王族でもお酌とか習ったりするんだな。
「夢みたいだ」
「大袈裟ですよ」
リカさんがはにかむ。
目尻にはうっすらと涙が滲んでいた。
薫さんの表情は、俺の方からは見て取れない。
少しは嬉しそうだったり、照れくさそうな顔、してたりするのかな。
「あっ! 零れちゃう、よ……?」
リカさんの顔が、薫さんの頭に隠れて見えなくなる。
それと同時にぐぐもった声が。
「へっ?」
キス? いや、まさかな。
内心で否定しながらも、俺の頬は強張っていく。
「んっ!? ぅっ……かお……っ」
リカさんが激しく抵抗し始めた。
二人はもつれ合うようにして畳の上へ。
薫さんがリカさんを押し倒すような格好になる。
「うわっ……」
やっぱチューしてた。
つーか、深ッ!!! ちゅっ♡ なんてレベルの生易しいもんじゃない。
ぶっちゅ~っ♡ レベルの熱烈なキッスだ。
リカさんの口端からは、唾液が零れ落ちていて……とっ、とにかく止めないと!
「かっ、薫さん? ヤダな~、酔っぱらっちゃったんです――かっ!?」
俺の手が薫さんに触れることは――なかった。
何の前触れもなく押し倒される。
仰向けの形だ。頭と背中を打った。痛い。
一体何が……?
目を開けると、天井を背にした桂さんの姿があった。
両手は……ダメだ。動かない。
桂さんのデカい手にガッツリ押さえ込まれてる。
「なっ、何を――っ!?」
銀色の坊主頭、屈強な体はそのままに桂さんの顔が変型し始めた。
目鼻口がぐちゃぐちゃに混ざり合う。
かと思えば、散り散りになって一つ一つのパーツを形成していって。
「……誰?」
見た目年齢は三十代前半に。
リカさんと同じぐらいの年頃になった。
薄くて素朴な顔立ちから、彫りの深いワイルドな顔立ちに。
渋いけど、どこかだらしない。
強烈で芳醇な何かを感じた。
「あぁあっ!!!」
逆さまな視界の中で、リカさんが悲鳴を上げる。
胸を押さえて凄く苦しそうだ。
「リカさん!!!」
「抗いますか。流石ですね」
「おねが……こん、な……やめて、よ――!」
薫さんは、リカさんをうつ伏せに。
その上にのしかかるような体勢を取った。
リカさんの長い髪が畳の上に広がる。
薫さんはそんなリカさんの姿を冷めた目で見下ろしながら、自分の唇を乱暴に拭う。
「リカさん! リカさん!! ~~っ、くそっ!」
リカさんと俺の距離は約一畳(二メートル弱)。
こんなに近くにいるのに、俺は何も出来なくて。
「っ!? 君は穂高 ? 薫の側近の?」
リカさんの視線は、俺を拘束している妖狐さんに向いているようだった。
まさか――。
「はい。ご無沙汰しております、常盤 様」
「姿だけじゃなくて、名前も偽っていたってことですか? 一体何のために……?」
思わず問いかけてしまった。
それを受けて、桂さんもとい穂高さんがふっと嗤う。
「常盤様に『首輪』をおかけするためです」
「首輪……?」
「操術という、他者を意のままに操る術でございます」
っ! 俺がかけられていた術だ。
命令されたら絶対に逆らえない。
自力じゃ出来ないことも、無理矢理に実行させられてしまう。
まさに絶対服従。
このままいくと、リカさんがあの状態に。
薫さんの言いなりになるってことか。
でも、一体何のために?
そうまでして、リカさんを雨司 に戻したいのか?
「父上に命令されたの?」
「いえ、僕の独断です」
「目的は? 私への復讐?」
「手伝っていただきたいことがあるのです」
「何を?」
「雨司を滅ぼす手伝いを」
とんでもないことを言い出した。
けど、薫さんは変わらず淡々としている。
本気なのか? どうして?
住む家も、国も、全部失うことになるのに。
「雨司は腐敗しきっている。清く正しくあろうとすればするほどに嗤われ、そして虐げられていく」
「薫……」
「滅ぶべきなんですよ、あんな国は」
失敗……したんだろうな。雨司を改革しようとして。
それで絶望してこんな凶行に。
「早まらないで。薫にならきっと――あぁっ!?」
「御託は結構。とっととその体を明け渡してください」
「やっ……」
「今日から貴方は僕の剣となるのです」
「あっ!? あぁああッ!??」
麻酔なしで内臓や骨を好き勝手に弄られてる。
俺の目にはそんなふうに映った。
リカさんの金色の瞳が、どんどん虚ろになっていく。
「止めて!! 薫さん――ン……っ」
声が出なくなった。呑み込まれた。何に?
分厚くて生温かい。これは……唇?
「んン!?」
穂高さんにキスされてる!?
嘘!? 何で!?
「優太!!!」
「んぁ……っ」
重い。手で穂高さんの作務衣を引っ張ったり、足をバタつかせてみるけどまるでびくともしない。
「ハァ……奥方様……」
「~~っ」
穂高さんの吐息が俺の顔にかかる。酒臭い。
唇を畳んで隠すと、顔中に甘ったるいキスを落としてきた。
気色悪い!! 嫌だ!!! リカさん以外の人とこんな……っ。
「優太!! 優太!!!」
「っ!」
そうだ。一畳先にはリカさんが。
~~っ、お願い。見ないで……っ。
「もういいだろ」
「くっくっく、まだまだこれからでしょ?」
穂高さんは鼻息荒く樹月さんに返すと、俺のYシャツごとブレザーを掴んで――。
「っ!!?」
左右に力任せに引っ張った。
ボタンが飛び散る。赤いネクタイも引きちぎられて。
――犯される。
嫌だ!! 嫌だ!!
死ぬ気で抵抗しないといけないのに、体はピクリとも動かない。
声すら思うように出せない。
意味を持たない音ばかりが、口端から零れ落ちていく。
「ほぅ。見かけによらず、鍛えていらっしゃるんですね」
穂高さんのデカい手が、俺の胸やお腹を撫で回していく。
鳥肌が立つ。俺は何とか右手を動かして、穂高さんの腕を掴んだ。
けれど、何も変わらない。
穂高さんは、好き勝手に俺の体を弄んでいく。
「あっ!」
「おやおや、ここも開発済みとは。天狐様と言えど、所詮は雄というわけですね」
乳首を摘まれる。指の腹で擦られて、引っ張られて。
俺の意思とは関係なしに、やわらかかった乳首がどんどん硬くなっていく。
「食べ頃ですね」
ダメだ。そこは。そこを吸われたら俺は――。
「いただきます」
「止めるんだ、穂高っ!!!!」
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