42 / 48

37.リカさん以外の人に(☆)

分厚い肩を押す。だけど、まるで無意味だ。 あっさりと押し戻されてしまう。 穂高(ほたか)さんの吐息が俺の胸を撫でていく。 舌先をちろちろと揺らして、乳首に向かって伸ばしてきて。 ~~っ、嫌だ! 嫌だ!! 嫌だ!!! 「あぁっ!!」 触れた。触れてしまった。 美味そうに喉を鳴らしながら、胸の先を舐めていく。 そして――。 「あっ……!!」 チュッと吸い付いてきた。 妖力が奪われる。 「あ? ははっ! なるほど。こーやって妖力を分けるわけですね」 止めて。声にならない声で必死に訴えかけるけど、穂高さんはニタニタと嗤うばかりで。 「あン! あ……はっ……!!」 力任せに吸い付いてくる。 痛い。胸に舌が、唾が、吐息が絡みついて気持ち悪い。 「ゆう、……っ、優太(ゆうた)!!」 リカさんに見られてる。聞かれてる。 嫌だ。死にたいぐらい嫌なはずなのに。 「あんっ♡ あっ……はぁンッ……♡♡」 体は悦んでる。 口からは穂高さんを煽るような甘ったるい声が溢れて。 「っは、とんだ淫乱だな」 穂高さんが嘲笑う。俺の乳首をねっとりと舐め上げながら。 ~~っ、違う。これは俺の意思じゃない。 俺にはどうすることも出来ないんだ。どうすることも……っ。 「いい顔するねぇ。寝取りがいがあるってなもんだ――っ! ぐあっ!!?」 「っ!?」 突風が吹いた……と思ったら、穂高さんの姿が消えた。 どこ行った? あ、いた。庭だ。庭に倒れてる。 ……って、えっ!!? あの二メートル超えの巨体が吹き飛ばされたのか!!? 一体誰が……? 周囲を見回すと、斜め向かいに見知らぬ妖狐さんの姿があった。 金髪碧眼の西洋風の妖狐さんだ。 眩い金色の髪は、低い位置に結わえている。 尻尾の数は五本。 顔は……ヤバ。超イケメンだ。 ふっくらとした涙袋に、パッチリ二重のアーモンドアイ、それにシャープな鼻筋……と、甘さと男らしさのバランスが取れた、とても美しいお顔立ちをされている。 つい目で追っちゃう。 だけど、絶対に声はかけられない。 (かおる)さんが冷淡なら、この人は冷酷って感じだ。 噂の無礼討ちも躊躇なくかましてきそうな、そんな恐ろしさがある。 「定道(さだみち)、やっぱり君だったんだね」 「ご無沙汰しております、天狐・常盤(ときわ)様」 西洋風の妖狐さんもとい定道さんが、リカさんに向かって礼をする。 なるほど。この人が噂の側近さんか。 元はこの人が、ノラ妖狐さんを連れてくる手筈になっていた。 なのに、自由の利かない立場であるはずの薫さんが来た。 その時点で俺達は、疑ってかかるべきだったのかもしれない。 ……今更後悔しても仕方のないことだけど。 「まったく。ヤキモチと取りますよ、お定殿」 穂高さんが戻って来た。 土を払いながら客間に足を踏み入れていく。 俺は直ぐさま後退して、ボロボロになった制服で肌を隠した。 「……っ」 フラッシュバックする。 穂高さんにキスされて、胸を舐められて……。 否応なしに体が震える。止まらない。 「「「六花(りっか)様!!!!」」」 「「「優太!!!!」」」 無数の足音が近付いてくる。里のみんなだ。 女中猫又ズに屈強河童のみんな、それに雑貨妖怪のみんなまで。 それぞれ農具やら包丁やらを手にしている。 その意図は考えるまでもなくて。 「来ちゃダメだ!」 リカさんが叫んだ。 それでもみんなの怒りは収まらない。 「さっ、里から出ていけ!! このキツネ共が!!」 椿(つばき)ちゃんが啖呵を切った。 でも、その言葉とは裏腹に、小さな体はガタガタと震えている。 いや、椿ちゃんだけじゃない。他のみんなもそうだ。 それだけ妖狐さん達は、強くて恐ろしい存在なんだろう。 なのに、あんなに必死になって立ち向かおうとしてくれている。 リカさんや俺を助けるために。 「みんな……っ」 「頭が高い。控えろ」 定道さんはそう言って、里のみんなに手を向けた。 まさか攻撃する気じゃ。 「やっ、やめ――っ!!!」 「お待ちください!!!」 その時、大きな土煙を立てて何かが現れた。 直径四~五メートルはありそうな巨大な何か。 あれは……輪入道の大五郎(だいごろう)さんだ。 里のみんなを庇うようにして、先頭に立ってくれている。

ともだちにシェアしよう!