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39.ずっと一緒
「薫 さんは凄いですね」
「何の話だ」
「みんなが正しいって言ってきたことに、『否』を突き付けたわけでしょ? ほんと凄い勇気だなって思います」
「お前にも出来そうなものだが?」
「ははっ、そうですね。今なら出来るかも。でも、前は出来なかった」
「前世の話か?」
「はい。仲間外れにされるのが怖くて、ずっと逃げてばっかで。守らなきゃいけない人を、見捨ててしまったこともあります」
「…………」
薫さんが無言のまま見つめてくる。
責めているようには見えなかった。
ただ、俺の真意を見定めようとしている。
俺の目にはそんなふうに映った。
一見すると冷淡だけど、その実はどこまでも公平な人。
こんなに王様にピッタリな人はそうはいないんじゃないかと、バカな俺でも思うことが出来た。
それだけに熱も入る。
何としても薫さんに再起を図ってほしいって。
……いや、それだけじゃないな。
俺も薫さんの力になりたい。なぜなら――。
「今世では、守る人になりたい。この里みたいに、優しい人達が安心して暮らせる場所を、もっともっと増やしていきたいんです」
「ゆーた……」
黒猫又の椿 ちゃんが呟く。
それなりに離れてるけど、他のみんなにも聞こえたみたいだ。
子供の成長を喜ぶ親みたいな目で見てくる。
何だか照れ臭いな。
でも、とってもありがたいことだ。
弾みにさせてもらおう。
小さく咳払いをして核心に入る。
「俺にも何か手伝わせてください」
「……何?」
「俺に出来ることなら何でもします。だから、もう一度だけ。もう一度だけ、平和を目指して頑張ってみてもらえませんか?」
「…………」
沈黙が訪れる。
トゲトゲとした感じや、怒りみたいなものは伝わってこない。
お陰で安心して待つことが出来た。
ちゃんと考えてくれてるんだって、そう思えたから。
「何でもする……か」
薫さんが小さく息をついた。
変わらず無表情だけど、ほんの少しだけ表情が緩んだような気がする。
「ならば、転生しろと言ったらどうする」
「っ! そっ、それって……もう一回死ねってことですか?」
「人の生を捨て、妖狐に転じろと言っているのだ」
「えっ!? そっ、そんなこと出来るんですか!?」
「可能だ。兄上ならばな」
「ヤダな。流石にそんなこと……出来ないよ」
リカさんだ。会話に混ざれるぐらい元気になったのか。
一安心だけど、一方で俺の胸はざわざわしまくってる。
どっちだ? どっちが正しいことを言ってるんだ?
「無駄な足掻きは止してください。僕はもう貴方のすべてを知っているのですから」
「……っ」
リカさんは否定しなかった。
ってことは、薫さんが言っていることの方が正しい。
俺は妖狐に転生出来るってことだな。
「妖狐になったら、何かお役に立てるんでしょうか?」
「妖力は増し、寿命も延びる」
「っ! それってつまり、みんなとずっと一緒にいられるってことですか!?」
視界がぱーっと開けていくのを感じた。
どうしよう。すっげえ嬉しい!!
「「「優太 !!!」」」
「やったー!! ずっと一緒ニャ♪」
「待って」
またしてもリカさんが止めに入った。
珍しく神妙な顔をしている。
リカさんは嬉しくないのか?
リカさんが妨害してくる理由がどうにも分からなくて、少しだけむっとする。
「優太、落ち着いて考えてみて。本来であれば百年足らずで終えられていたはずの生涯を、千年、五千年と続けていくことになるんだよ?」
「それは、まぁ……」
「私の方が先に逝く、なんてこともあるかもしれない」
「えっ?」
「妖狐は不死身じゃない。病、怪我、呪術、毒なんかでも簡単に命を落として――」
「それでも、人間でいるよりは長く一緒にいられるかもしれない」
「っ! それは……」
「へへっ、不純ですかね?」
リカさんの金色の瞳が、じわっと潤み出す。
ああ、なんだ。俺のためだったのか。
まったく優し過ぎるんですよ、リカさんは。
「っ! 常盤 様、まだ起き上がられては」
「大丈夫ですよ。もう済みましたから」
「そっ、そうか。流石だ――」
「優太!!」
座ったままの状態でリカさんに抱き締められる。
それと同時に俺の肩のあたりが濡れていく。泣いてるんだ。
「大丈夫ですよ。時間が許す限りずっと傍にいますから」
「うん。うんっ、……ありがとう」
俺はそっとリカさんを抱き締めた。
それと同時に胸の奥がきゅ~~っとする。
愛おしい。心からそう思った。
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