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40.和解

「人間」 「はっ、はい!」 (かおる)さんだ。返事をすると、すっと体が軽くなった。 リカさんがハグを解いたんだ(意外)。 「兄上の手綱をしっかりと握っておけ。それが当面の間のお前の役割だ」 「しょっ、承知しました! あっ! じゃあ、その……えと……」 「何だ」 「へっ、平和のためにもう一度頑張っていただけるってことでいいんですかね!?」 「ああ」 「っ!!! やった!!!!」 「うおお! 椿(つばき)も何か手伝うニャ!」 「きゅきゅきゅっ!」 「畑仕事なら俺らに任せな!!!」 協力の声が押し寄せてくる。みんなやる気満々だ。 薫さんはそんなみんなを見て、ふっと表情を和らげた。 嬉しいんだろうな、きっと。 「今度こそ頑張らないとね」 リカさんもやる気みたいだ。 けど、薫さんは喜ばない。 むしろ、眉を寄せてメチャ嫌そうな顔をしている。 「仕事が増えるのはごめんです。貴方は黙って、僕の指示に従ってください」 「辛辣だな~」 「自力で励んだ結果があの様です」 「あれは――」 「貴方は計画性がなさ過ぎるんですよ」 「むぅ……」 思わず吹き出しそうになった。 流石は弟君。リカさんのことをよ~く理解していらっしゃる。 「悪いようにはしません。貴方の意思は尊重します」 「っ! 薫……」 「疑わしいと思われるのなら、御覧になればいいでしょう。貴方は僕と違って、触れるだけで――」 「薫!!!!!」 リカさんが薫さんをむぎゅっと抱き締める。 薫さんの綺麗な顔が、リカさんのお胸に埋まった。 苦しそう。だけど、リカさんは構わずスリスリしていく。 尻尾をパタパタと振りながら(可愛い)。 一方で薫さんは――無だ。 ノーリアクションでされるがままになってる。 困惑してるっていうよりは、どーでもいいって感じの反応だ。 勿体ないよな。笑ったらあんなに可愛いのに。 「ん~? じゃあ、何かい? 六花(りっか)様が王太子様になって、ゆくゆくは妖狐の国の王様になるってことかい?」 「こんな短慮な力だけの妖狐に、王が務まるわけがないだろう」 誰かが反論した。ぐぐもった声。薫さんだ。 尚もスリスリしてくるリカさんの顔を力任せに押して、ハグを解除させる。 「あがっ……かおる~っ♡」 それでも、リカさんは笑顔だ。 性懲りもなく薫さんに向かって手を伸ばしている。 好感度が暴発して、おかしなことになってるな。 「兄上には僕の補佐 兼 相談役を務めていただきます」 「っ! へへっ、相談役か~♪」 「……意味、ちゃんと分かってますか?」 同感だ。リカさんからはイマイチ緊張感が伝わってこない。 大丈夫かな? いや、仮にも元王太子なんだし問題はない……か? 「何はともあれ、あの兄弟和解したみたいじゃの~」 「案外、その気はなかったんじゃねーか?」 「滅亡云々は茶番だったって言うのかい?」 「いいや。本気だった」 「「「えっ?」」」 「兄上やお前達の出方によっては、滅亡で手を打つつもりでいた」 薫さんはさらっと答えた。 それこそ何でもないことみたいに。 一方のみんなは顔面蒼白だ。 そりゃそうだよな。 自分達の選択一つで、国が一つ滅んでいたかもしれないんだから。 「本当にどっちでも良かったんだ」 「薫さん……」 大五郎(だいごろう)さんは言っていた。 薫さんは、復讐に囚われても仕方のないような境遇にあったって。 一体どれだけの苦しみや悲しみを乗り越えてきたんだろう。 想像するだけで胸が痛んだ。 「よくぞ御決断くださいました」 みんなが驚き戸惑う中で、大五郎さんが深々と頭を下げた。 髭まみれの顔に満面の笑みを浮かべている。 よく見ると、目尻には薄っすらと涙が滲んでいた(雷オヤジの目にも涙)。 「…………」 薫さんは無表情のままだ。 何か言いかけて口を噤む。 その時、ほんの一瞬だけど薫さんが幼く見えた。 何でだろう? やっぱ子供の頃からお世話になってるからかな。 つい素が出ちゃう、みたいな。 「……っ、貴様には引き続き、兄上の側近の任を命じる」 「はっ!」 「えっ!? ちょっ――あだっ!?」 リカさんの体が吹き飛ぶ。 薫さんからビンタを喰らったからだ。 実に見事な手つきだった。 まるでそうカルタを取るような鮮やかさで。 よっ、容赦ねえ~……。 「わがぁ~~っ!!!」 「「「!!?」」」 不意に定道(さだみち)さんが泣き出した。 まさにギャン泣き。おまけに鼻水まで垂らしてる。 折角の主演俳優級の美貌が台無しだ。 ん? つーか、何で??? と疑問符を浮かべていると、穂高(ほたか)さんが苦笑混じりに説明してくれる。 「お定殿は案じておられたのですよ。大五郎殿に、側近の座を脅かされるのではないかと」 おまけに地雷まで踏まれて殺意爆発と。 噂に聞いた血の気の多い国民性は、ガチなのかもしれない。 ……怒らせないように気を付けよ。 「薫のばーか」 「何の話です、か……!」 不意に薫さんの体が輝き出した。 あまりの眩しさに堪らず目を瞑る。 ん? 何だ? 俺の手に何かが当たってる。 あったかくて、もふもふで。 「ふぉ?」 俺は反射的に手を開いて、そのもふもふを握った。

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