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41.天昇とヤキモチと

「……何をする」 「っ!? すみません!!!」 慌てて手を離した。 魅惑のもふもふの正体は、(かおる)さんの尻尾だったのか。 おっ、俺は何ってことを……!!! で、でも……今のは間違いなく、一生に一度のチャンスだったよな!? 薫さんの尻尾を……王太子殿下の尻尾をモフれるのなんて……あぁ゛!! どうせならもっとちゃんと味わっておけば良かっ――ん? あれ? 薫さん、何か雰囲気変わった……? 「~~っ、この無礼者が!!! よりにもよって若のしっ、尻尾に触れるなど――」 「あー!!!」 「「「っ!!?」」」 そうだ! 尻尾だ!! もふもふの面積が増えたんだ!!! 「ひー、ふー、みー……やー、こー……こー!? 九本!? 元は七本でしたよね!?」 「そうだねー。あと一回天昇したら天狐だねー」 めっちゃ棒読みだ。 なんで? リカさんにとっても喜ばしいことのはずなのに……。 「そろそろお暇します」 一頻り盛り上がったところで、薫さんが切り出した。 名残惜しいけど、やっぱ忙しいんだろうな。 「そのうち、また遊びに来てね」 「……は?」 「ん?」 「遊びに、ですって?」 「あ……」 「貴方はまだ遊び半分でいらっしゃるようですね」 「そっ、そんなつもりは! 今のは言葉の綾で――」 「言い訳は結構です」 お説教タイム開始。 薫さんは変わらず淡々としているけどその内容は超超激辛で、リカさんはみるみるうちに小さくなっていく。 「ふっ」 そんな兄弟の様子を、大五郎(だいごろう)さんが穏やかな目で見守っていた。 俺、大五郎さんからめっちゃ嫌われてるけど……今なら少しは話せるかも。 薫さんから貰った手拭いをブレザーのポケットにしまいつつ、大五郎さんの傍まで行ってみる。 「椿(つばき)。替えの着物を持ってきてやれ」 大五郎さんは、俺の姿を目にするなり指示を出した。 俺が文字通りのズタボロだからだろう。 ブレザー、Yシャツ、インナーはビリッビリに破かれて、左右に力なく揺れている。 「いえ! 大丈夫です」 「……そうか」 「あっ、ありがとうございます! お気遣いをいただいて」 「いや、礼を言うのは俺の方だ。お前のお陰であの通り和解に至れた」 「やっぱり心配していらしたんですね」 「天狐・(みお)様がこう仰られていたんだ……」 明かしてくれる。 リカさん達のお婆さん・澪さんとのやり取りを。 『常盤(ときわ)には【夢】と【力】があるが、【忍耐】と【頭脳】がない。反対に、薫には【忍耐】と【頭脳】があるが、【夢】と【力】がない』 『補完し合う関係にあるということですね』 『ああ、そうだ。……もしも……もしも常盤が、薫に夢を見させることが出来たのなら……ふふっ、少しはマシな世の中になるのかもしれないね』 澪さんはそう言って、少し疲れたような顔で笑っていたのだという。 無理強いはしない。 でも、誰よりも兄弟が手を組むことを期待していた。 ……俺には、そんなふうに思えた。 「澪様、喜んでくれてますかね?」 「ああ、きっとな」 大五郎さんが大きな歯を出して笑った。 つられるようにして俺も。 「ご理解いただけましたか?」 「……はい」 リカさんは項垂れていた。三角耳もぺたりと伏せている。 大分こってり絞られたみたいだ。 「では、帰ります。とっとと扉を開けてください」 「うん。あっ、定道(さだみち)穂高(ほたか)もいいかな?」 定道さんは会釈で、穂高さんは手を上げる形で応えた。 「開界」 リカさんがそう唱えると、三人の体が瞬時に消えた。 まるでそう最初からいなかったみたいに。 俺は思わずポケットに手をやる。 良かった。薫さんから貰った手拭いは、ちゃんとある。 夢じゃなかったんだな。 「優太(ゆうた)」 「うぐっ」 リカさんが正面からハグしてきた。 あまりの勢いに、俺の上下の歯がガッチンコする。 いっ、痛い(泣)。 「お熱いね~♡」 「新婚じゃからな~」 「っ! リカさん、みんなが見てる――」 「守れなくて、ごめん」 「あ……」 フラッシュバックする。 穂高さんの体温、舌、唇の感触が。だけど――。 「俺の方こそ、守れなくて……すみませんでした」 俺にとってはこっちの方がずっとショックだった。 目の前にいたのに、俺は何も出来なくて。 「かっこいいんだから」 「どこが」 「後で、ちゃんと上書きさせてね」 「っ!」 「優太もお願い。いっぱい『きす』して」 「っ!!!」 囁かれた。甘く、色っぽく。 いっぱいのキスをリカさんに……。 想像しかけて、一気に顔が熱くなった。 我ながらチョロすぎる。 「おぉ? 公開子作りかぁ?」 「っ!? ンなわけないでしょ!!」 「そうそう。これからするのは公開お説教だよ」 「はえ?」 「「「???」」」 「ねえ、優太」 「はっ、はい!」 「薫の尻尾、いいなって思ったでしょ?」 「っ!?」 「もっと触りたいなって思ったでしょ?」 「っ!!??」 有無を言わさず問いかけてくる。 リカさんは変わらず笑顔だけど、圧が半端なくって。 「そっ、そんなわけ――ごひゅっ!?」 俺の視界を、全身を、リカさんの四本の尻尾が覆っていく。 あったかくて、もふもふで。 おまけにヤキモチのスパイス付きだ。堪らん。 俺の鼻孔はみるみるうちに広がって、両手もぷるぷると震えながら持ち上がっていく。 「ねえ、私の方がいいでしょう?」 「ひゃい♡」 俺は本能の赴くままに、顔を覆う尻尾を鷲掴みにした。 すんっと鼻を鳴らせば、干したての布団みたいな香りがする。 ああ、最高♡♡♡ 「素直でよろし――っ!」 「っ!?」 眩しい。何だ? 「あれ?」 光が薄れかけてきたところで違和感を覚えた。 温もりが……減った? 「まさか!?」 リカさんのお尻を見てみると、案の定尻尾の数が減っていた。 四本から二本へ。天昇したんだ! 「すごい! おめでとうござ――」 ちっ、と鋭い音が飛んできた。 今のは舌打ち? 誰が? えっ? まさか、リカさんが? 「神め。絶対わざとだよね?」 「いっ、いや! そんなことは――」 「おぉ! 六花(りっか)様が二尾の天狐様になられたぞい!」 「宴じゃ!!!」 「今はそういう気分じゃ――」 「「「宴だぁ!!」」」 「はぁ~……もう。分かったよ」 こうしてまた賑やかな日常が戻って来た。 一度失いかけただけに喜びも一入だ。 けど、喜んでばかりもいられない。 頑張るんだ。これまで以上にもっともっと。 かけがえのない今と未来を守るために。

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