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直登を幸せにしてやってくれ

 早教室に戻ると中西が居なかった。  あれ、鞄無くね?って帰ったのかよ! 「おい」 「うお!戸塚!?」  後ろからした低い声に驚いて振り向くとすこぶる機嫌の悪そうな戸塚がこちらを睨んでいた。 「あのー、戸塚さん?何か用っすか?まじこえーんだけど」 「直登を頼む」 「はぁ?」 「悔しいが、俺では直登を笑顔には出来ない」 「そうですか、でも悪ぃけど俺もあいつとは喧嘩したばっかでね」 「直登を幸せにしてやってくれ」 「……はいぃ!?」  軽く頭を下げてとんでもない事を頼んでくる鉄仮面。いやいや、いきなり意味分かんねぇよ! 「実は、俺と直登は先週の金曜日に別れているんだ。だから頼む」 「ちょ!次から次へとぶっ込んでくんな!俺の頭の情報処理が追いつかねぇ!」 「……なるほどな、直登は秋山のそういうところに惹かれたんだろうな」 「なぁ、別れたのってマジ?なんで!先週の金曜日って事は、やっぱり俺が女装したからか?」 「それは関係ない。まぁ元々俺が無理を言って付き合ってもらっていたんだ」 「そうだったんか。でもよ、俺は中西の気持ちに応える事は出来ねぇよ」 「どうしてだ?早川か?」 「そうじゃねぇよ。まぁいいや、とりあえず今日中西んとこ行ってくるわ」  その後戸塚は何も言わなかった。  早川にも言われたが、戸塚の言う事といい、中西は俺の事を好きなのかもしれない。だったらちゃんと向き合わねぇとな。  まぁ違ったら違ったでさっき強く言っちまった事謝りてぇしな。  放課後になり、早川が中西んちまで送ってくれる事になった。中西はバスで来てるっぽく徒歩だと遠くなりそうだったから助かった。 「なぁホントに一人で大丈夫かぁ?やっぱり俺も着いて行こうか?」 「当たり前だろ。てか早川いたら余計に悪化するだろうが」 「確かに~。何かあったらすぐ連絡ちょーだい。すっ飛んでくからさ」 「おう。あ、先帰ってていいぞ。適当に帰るから」 「え、貴哉んちまで結構距離あるぜ?」 「早川にそこまで迷惑かけらんねぇよ」 「俺と貴哉の仲じゃん♪どっかで待ってるから終わったら電話してよ。送ってくー」 「んー、まぁいっか」  正直、徒歩で帰るのもめんどいし、バスとか慣れてねぇから不安だったからチャラ男号で送ってもらえるとかラッキーだな。  そうこうしていると、中西宅に到着した。

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