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働かせてください!(6)
翌朝。両親への手紙を託して家令 と使用人たちを故郷へ返し、ユリウスはラインハルトの屋敷へと向かった。皇族は全員、あの大きな宮殿に住んでいるのかと思っていたけど、そうではないらしい。
両親への手紙には、「第3皇帝殿下に仕えることになった」とだけしたためた。「侍従」とも「妾」とも明記していない。それで真実を察してくれたらいいなと思っているし、姉のように、今は勘違いしておいてほしい気もする。
侍従として一人で立派にやっていけることが証明できたら、皆にはっきりと真実を告げるつもりだった。
ローザに描いてもらった地図に沿って歩くと、さほどかからずにそれらしき屋敷に辿り着いた。
そもそも、ここはいわゆる『貴族街』と呼ばれる場所で、都に住む貴族は皆、この辺りに住んでいる。小さな家が所狭しと並ぶ平民街と違って、一件一件が敷地が広く、建物も格段に大きい。
入ってすぐのところに厩舎があり、一頭の馬が繋がれていた。
その奥にある煉瓦造りの二階建ての家屋は、壁には蔦が這い、全体的に黒ずんでいて、ところどころひび割れている。一瞬、場所を間違えたかと思ったけど、地図には、『厩舎がある家』と、目的地に矢印をつけて文字が書かれている。
厩舎がある家は途中になかったから、おそらく、ここがラインハルト殿下の邸宅なのだろう。
外観だけで言えば、ユリウスの実家の敷地内にある、使用人が暮らす家のほうが、よほど立派だった。
その周りの庭も、池や草花どころか、庭木もまばらにしか生えておらず、庭というより小さな牧場のようだ。牧場という発想はたぶん間違っていない。草もほとんど生えていないのは、馬を毎日歩かせているからだろう。
邸宅の豪華さは身分に応じるものだと思っていたから、皇弟の住まいがこれなのかと正直驚いた。
しかしここまで来て、家の古さを理由に逃げ帰るわけにもいかない。
ユリウスは覚悟を決めて、邸宅の呼び鈴を鳴らした。
出迎えてくれたのは執事らしき初老の男性と、同じくらいの年の頃のメイドの服装をした女性だった。二人とも髪は銀色から白に近く、ユリウスからしたら祖父母の年齢に近そうに思える。
「カッシーラー辺境伯領の伯爵、ダニエル・イェーガーの庶子、ユリウスです。第3皇弟殿下に侍従としてお仕えさせていただくことになっています」
宮廷を訪ねたときと同様に丁寧に頭を下げると、二人はにっこりと柔和な微笑みを浮かべてみせた。
「まぁ。ユリウス様ね。思っていたとおりの可愛らしい方! こんなに早くに来てくださるなんて。ぼっちゃまもお喜びになるわ!」
「ユリウス様。ようこそお越しくださいました。お話はライニ様から伺っております。どうぞお入りになってください」
使用人としては向こうが大先輩になる。
普通は目下の使用人に敬称は使わないのではなかろうか。
侍従に対するとは思えない二人の丁寧すぎる物腰に戸惑いはしたものの、二人とも悪い人ではなさそうなので、そのことに安堵し、ユリウスは屋敷の中へと足を踏み入れた。
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