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働かせてください!(8)

「あの……、恥ずかしながら、僕は家ではほとんど仕事や家事をしたことがなくて……、薬草が好きなので土いじりはよくしていましたがけど……。でも、洗濯でも料理でも、何でも頑張りますので、色々教えてください!」  あら、まぁ。とエレナは驚いたように片手を頬にあて、夫であるギルベルトと顔を見合わせた。 「ユリウス様にそんなことさせられませんわ。ユリウス様は、この家にいてくださるだけでいいんです」  そう言えば、確かそのようなことを、ラインハルトも言っていた。いてくれるだけでいいと。  何もしなくていいのに、なぜ侍従として雇おうとするのか――。  もしかしたら、エイギルがラインハルトに事前に頼んでいたのかもしれないと、ユリウスは考えた。ユリウスが選定の儀で誰にも選ばれなかったときは、面倒をみてやってくれないかと。  だから、形だけ侍従として雇うことにしたけど、従兄弟の義弟という立場への遠慮もあって、仕事をさせる気がないのかも。  昨日はエイギルも、姉と同じように、ユリウスがラインハルトの元にいくことを喜んでくれていたけど、姉と比べて、その笑顔はどこかぎこちなかった気がする。それはきっと、妾ではなく侍従として仕えることを知っていたからに違いない。  ……エイギルは、僕が選定の儀で誰にも選ばれないことを予想していたんだろうな……。  上級貴族ならこれまで美しいオメガをたくさん見てきただろうし、当然か……。  そう思ったら、選ばれなかった惨めさと悲しみが再びぶり返してきたが、一晩休んで、多少は気持ちの切り替えができている。生まれ持ったものを嘆いても仕方がないし、今の自分で生きていくしかない。今はただ、誠心誠意、ラインハルト殿下にお仕えし、恩返しをしようと思っていた。  それにいくら従兄弟の義弟でも、その立場に甘んじて言われたとおりに本当に何もしなければ、そのうち故郷に返されてしまうだろう。昨日も、帰りたければ故郷に帰っていい、と言っていたし。  ユリウスはソファから立ち上がり、二人に向かって深々と頭を下げた。 「僕は侍従として、殿下の役に立ちたいんです! だからどうか、僕に仕事を教えてください!」 「ま……、まぁ! ユリウス様、頭をお上げください!」  そろそろと頭を上げると、夫婦が困った顔で顔を見合わせている。  夫のギルベルトが、観念したように口を開いた。 「では……、そうですね。徐々に仕事をお教えしましょう。まずはライニ様のお着替えや、水浴びのお手伝いからお願いします」 「家事は身につけておいて損することはありませんからね」  二人から柔和な笑みを向けられる。使用人の一員として認めてもらえたことも、ラインハルト殿下のために働けることも、嬉しかった。

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