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第5騎士団(1)
つがいになったことで、殿下との関係が少し変わったような気もするし、何ら変わりがないようにも思える。
朝夕の馬の散歩は、同じ馬に乗ることはなくなったかわりに、二人で別々の馬に乗って、一緒に庭を散歩させるようになった。
そして、殿下は家を出るときと帰って来たとき、いつも挨拶がわりにユリウスの頭をくしゃりとひと撫でする。家族みたいに、ハグをしたり頬にキスをしたりはしないけど、ワーグナー夫妻の頭を撫でることはないから、それはユリウスだけの特別待遇と言える。
殿下のユリウスを見つめる眼差しも、出会った頃に比べると随分と優しくなったように思う。つがいの欲目ってやつかもしれないけど。
ユリウスのほうにも、一つ変化があった。
殿下の衣を洗濯しようとすると、何だか変な気分になるのだ。洗うのが勿体ないというか、そんな気がして、つい匂いを嗅いでしまう。それだけで治まらず、こっそり自分の部屋に持ち帰って、その匂いに包まれて眠りたくなる。
でも、殿下の衣を勝手に拝借するわけにいかないし、それにもし、そのことを本人に知られたら、さすがに気持ち悪がられるだろう。
洗濯中、殿下のシャツを握りしめてそんなことを悶々と考え込んでいたら、エレナに考えていることを見破られてしまったらしい。
「ライニ様は衣をたくさんお持ちですから、お借りしても気づかれませんわよ」
そう言ってウィンクされた。
エレナが言うには、つがいのアルファの匂いのするものを傍におきたくなるのは、オメガの習性なのだそうだ。
習性ならば仕方がない。と自分に言い訳し、ユリウスは殿下には内緒にしてもらうようエレナにお願いして、洗う前の殿下の衣を自分の部屋に持ち帰った。
本当は、ベッドを殿下の衣でいっぱいにしたい。でもそれだと、部屋を見られてしまったときに言い訳ができない。そのため、一枚だけ借りて、匂いが薄くなったら脱ぎたての衣と交換するようにしている。
発情期 のせいで行きそびれた薬草屋さんにも、その次の殿下の休みに連れて行ってもらった。
薬草湯に入れる粉薬と、発情期 のときにフェロモンの香りを紛らわすための香草の苗。それに、発情期 中の火照りをやわらげ、気持ちを落ち着かせてくれる薬草茶を買ってもらった。
実家から持ってきた支度金もあるし、給金ももらっているので、自分で払うつもりだったのだが、結局は殿下が全部支払ってくれたのだ。
殿下は相変わらず愛想はないし無口だけど、行動の端々に優しさが垣間見える。殿下が心を許してくれているのを感じると、猛獣を懐かせたような喜びを覚える。
ユリウスはいつしか、そんな殿下に侍従以上の感情を抱くようになっていた。それをはっきりと自覚したのは、姉の家を訪ねたときのことだ。
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