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皇弟騎士の思い人(4)
ドアをノックして声をかける。「入りたまえ」と声が聞こえてきて、おそるおそる扉を押し開けた。
従僕長の執務室の10倍ほどありそうな、広々とした部屋だった。執務机の上に枝付き燭台と、左右の壁にも壁架けの燭台があり、中は十分に明るい。応接室も兼ねているのか、テーブルやソファもある。
サッと部屋を見回し、中にいたのが団長らしき人物一人のみであることを確認し、ホッと息を吐く。団長は正面奥の大きな机の前に立っていた。それ以外にも窓側に似たような机がもう一つあるので、もしかしたら、そちらは副団長の机かもしれない。ここに来るまでに『副団長室』とプレートに書かれている部屋はなかったから。
団長にお目にかかるのは、これが初めてだ。
金色のストレートの長髪を後ろで一つに束ねた髪型は、『騎士』よりも『文官』の雰囲気を感じた。
細めの蒼い目は目尻が吊り上がり気味で冷たい印象を受けるが、全体的に顔は整っていて、アルファなのかすらりと背も高い。
「使用人のユリウス・イェーガーです」
ユリウスは入ってすぐに跪き、挨拶をした。
「あぁ。わざわざ呼び出してすまなかった。そこにかけてくれ」
ぎくしゃくした不自然な動きで立ち上がり、指定されたソファに腰を下ろす。団長も、テーブルを挟んだ向かいのソファに腰かけた。
第5騎士団団長のディートリヒ・コフマンは、帝国領の近郊に領地を持つ子爵家の三男だそうだ。ユリウスより10才上の28才。子爵家の三男でその年で騎士団長まで昇りつめているということは、かなりの「やり手」らしい。
というのは、夕食中にアルミンが教えてくれた情報だ。アルミンは地元出身だからか、軍営内のことに詳しい。
ユリウスは上目づかいでそっと相手の表情を窺う。
同じように鋭い眼差しでも、真顔でも威圧的に見えるラインハルトの眼差しに比べると、こちらは抜け目のなさを感じる。例えれば、狼と狐といったところか。
「君はガイトナー公爵の義理の弟だそうだね」
団長は薄い唇に微笑を浮かべてみせた。口元は笑っているのに目は笑っていないように見えるのは、自分自身が警戒しているからだろうか。
「はい……。姉がガイトナー公爵に嫁いだので、義理の兄になりました」
「うちの副団長とも親しい仲だそうだね」
今度は答えに窮した。
侍従として仕えていたことを知っているのだろうかと考えて、エイギルの紹介状のことを思い出した。『殿下とイェーガー様も親しい仲』と紹介状に書いてあると従僕長が言っていた。おそらく従僕長からその話を聞いたのだろう。
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