……なんか……これってかなり……。マズくないか……？ 　頭の中で警鐘が響き始める。 　騎士団長に呼ばれていると言ったとき、アルミンが「俺もついて行こうか？」と心配そうにしていたことを思い出した。 　もしかしたらこういうことって、軍営あるあるなんだろうか……。 「怖がらなくていいよ。俺たち、乱暴なことはしないから」 「そうそう。俺たちで君の歓迎会をしたいだけだ」 「おとなしくしてくれたら、君にもいい思いをさせてあげるよ」 　男たちの一人が手を伸ばしてきて、ユリウスは彼らに背を向け、走り出そうとした。――が、それより先にその手に肩を掴まれ、倒れ込むように引き寄せられてしまう。 「た……」 　たすけて！　と言おうとした声は、掌で口を塞がれ、皆まで言えなかった。 　暴れようにも、屈強な男たちからしたら、小柄で華奢なユリウスなんて子供のようなものだろう。　 　口を塞がれたまま後ろから腕ごと羽交い絞めにされ、別の男に下肢をひとまとめにして持ち上げられる。 　兵舎とは離れた暗闇のほうへ連れて行かれようとしていた。 　……ライニ様――……。 　殿下の顔を思い出したら、涙が零れた。 　こんなことになるくらいだったら、ここで使用人として働くことにしたと、食堂で見かけたときにライニ様に打ち明けておけばよかった。そうしたら、最後に頭を撫でてもらえたかもしれないのに……。 　彼らが酔いに任せて何をしようとしているかは、温室育ちのユリウスにも想像がつく。もし、彼らに貞操を奪われるようなことがあれば、一生、殿下に合わせる顔がなかった。 「お前たち、どこに行く？」 　そのとき、追いかけてくるように、近くで声がした。聞き覚えのある声だった。 　ユリウスを運んでいた男たちの足が止まる。 　彼らは後ろを振り返ると、慌ててユリウスを下ろし、背中に隠した。 「あ……、えっと……、新人の使用人が具合悪そうに蹲っていたので、宿舎に連れて行ってやろうとしていたところです」 　敬語で答えているところをみると、目上の人間なのだろうか……。 　答えている男とは別の男が、ユリウスの耳元で、「余計なこと言うなよ」と潜めた声で囁く。 「使用人の宿舎はそっちじゃないだろ」 「そ……、そうですよね……。こいつが小便したいって言うから、ちょっとそこの草むらでさせてやろうと思いまして……。は、ははははは」 「お前、もう具合は良さそうだな。じゃあ、俺達はもう兵舎に戻らせてもらうからな」 　腕を掴まれていた手を離され、ユリウスは腰が抜けたようにその場にへなへなとへたり込んだ。 「おい、お前ら！」 　声をかけた人物が、こちらに近づいて来る。 「明日も朝が早いし、俺達はこのへんで失礼しますね」 　酒の匂いに気づかれたくなかったのか、男たちは一目散にその場を離れた。