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第2話 旅立ち

「白露、準備はできたかい?」  自室の外から母が声をかけてくる。 「うん、ばっちりだよ母さん」  外衣(がいい)を帯で縛った白露は元気よく返事をする。竹を編んで自作したかごを背負い、厨房に移動した。かめの水に映った姿を確認する。  穏やかな内面を映したような垂れ眉も垂れ目もいつも通りだが、黒い瞳は希望に満ちてキラキラと輝いていた。  黒髪と同じ色のパンダ耳をひと撫でして毛並みを整え、小さな口に笑みを乗せて門口へと向かう。  両親は家の前で白露を待っていた。里の出口まで見送ってくれるつもりらしい。笹林の小径(こみち)を家族三人で歩くさなか、父はのんびりとした口調で白露に言い聞かせた。 「父さん達は外のことはよくわからないが、大きな街道に沿ってずっと歩いていけばそのうち皇都(おうと)へと辿りつけるはずだ。いいか、寄り道せずまっすぐ行くんだぞ」 「わかったよ父さん」  惹かれた物に目移りしてしまい道に迷う自覚があったので、白露は素直に返事をした。母もうんうんと呑気に頷く。 「皇都は人が多いと聞くし里の外であれば、()()()()()とやらもいるんじゃないかね」 「そうだね、いるといいなあ」  白露はパンダ獣人で唯一のオメガだ。パンダ獣人は人里離れた竹林の中に居を構え、ほとんど外と交流しないで生きている。  昔はパンダ獣人の中にもオメガやアルファが生まれることもあったらしいが、今ではベータばかりだ。  オメガについて詳しい知識を持つ者はおらず、白露自身も自分はいい匂いがするらしいとだけわかっている状態だ。  半年に一度現れる行商人に聞いた話によると、オメガには発情期という期間があり、抑制剤がないと大変辛く、周りの雄を誘うため危険であるらしい。  無差別な発情を抑えるためには、アルファと番になる必要がある。白露にはまだ発情期が来ていないが、いつくるかわからない。  十八になり大人だと認められた白露は、里から出て番を探すことにした。

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