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第4話
危険な野生動物に出会うこともなく竹林を抜けられて安心した白露は、しばし休憩をとることにした。笹の葉の柔らかい部分をぷちりと抜いて、もぐもぐと食べはじめる。
(この先にも竹林があるといいんだけれど。今のうちにたくさん食べておこうっと)
時々木の実や新芽、果実などをかじることもあったけれど、里では基本的に笹を食べていた。馴染んだ食べ物が調達できなくなると考えると心細い。
竹籠の中に入るだけ笹の葉を入れると、竹水筒の水を飲んでからまた歩を進めた。
普段はのんびり屋の白露だけれど、村にたどり着けずに野宿になると危険だと聞いていたので、できる限り急いだ結果夕暮れ前には村に辿り着くことができた。
立ち昇る煙を見て、もうお風呂の時間なのかなと首を捻った。なにか美味しそうな匂いが漂ってきている。
興味の惹かれるまま家の側まで赴いた。灰色の瓦屋根は年月を経て色褪せている。酒の詰まった大きな黒いかめが店先にゴロゴロと並べられていて、家の中にはたくさんのテーブルがあり、そして笑い声が聞こえる。
(なんだろう、初めて嗅ぐ匂いだ)
スンスンと鼻をならし匂いを堪能していると、小さな耳をしたひょろっと背の高い獣人が店の中から出てきた。彼は白露の耳に目を止めて瞳を丸くする。
「ん? なんだお前、熊獣人の子どもか?」
「こんにちは。僕はパンダ獣人の白露といいます」
「へえっ? パンダ獣人? 実在したのか」
彼は無遠慮にジロジロと白露を上から下まで眺めた。そんなに珍しいのだろうかと、居心地悪く思いながらも問い返す。
「お兄さんは、何獣人なんですか?」
「俺はイタチ獣人さ。見りゃわかるだろ、珍しくもない」
「そうなんですか、初めて会いました」
イタチ獣人はニヤリと笑って、白露の肩に後ろから手をかけてくる。急に触られて肩を竦めた。
「お前、なかなかの世間知らずだなあ」
「そうですね。里を出てきたばかりですから」
「ふうん。だったらさ、ちょっとこっちに来てくれないか。色々教えてやるよ」
(なんだろう、馴れ馴れしい人だなあ……このままついて行って大丈夫かな?)
不安に思ってイタチ獣人をじっと見上げると、彼は白露を睨みつけながらまくしたてた。
「なんだよ、俺を疑ってるのか? 失礼なやつだな、せっかく親切にしてやろうと思ったのに。俺の助言を聞かないなんて一生の損だぞ」
「あ、すみません。疑ったわけじゃなくて」
「だったら今すぐに来いよ。ほら、こっちだ」
(うーん、なんとなく焦っているような……里の子がこういう素振りを見せる時って、だいたい隠し事をしてる時なんだよねえ)
何を隠しているんだろうと考えてみるが、イタチ獣人の彼とは初めて会ったばかりだ。理由なんて想像もつかなかった。
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