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第5話

 手を引かれながら、ひょっとしたら何かのっぴきならない事情で困っていて、助言をするなんて言っているけれど、本当は助けてほしいんじゃないかと閃く。 (何か困っているなら、話くらいは聞いてあげてもいいかな)  それに彼の申し出ている通り、本当に外の世界のことを詳しく教えてくれる気なのかもしれない。戸惑いはあったものの、イタチ獣人を信じてついていくことにした。 「どこに行くんですか?」 「こっちだ」  彼は建物の裏口に回ると荷車に近づいていく。イタチの耳をしきりに動かして、辺りを見回した彼は白露の背を押して荷車へと導く。 「この壺の中身を見てほしいんだ」  壺や枯れ草が積まれた荷車に近づくと、ツンとした塩っぽい香りと薬のような苦い臭いが鼻につく。思わずうっと顔をしかめて離れようとすると、後ろ手に紐が巻きつく感触がした。 「えっ?」 「それっ」  思い切り背中を押されて、白露は荷車の中に倒れこんだ。手首に巻きついた紐で身動きが取れない。肩を板の上に打ちつけて痛みで身を竦めている間に、両足までまとめて紐で結えられてしまった。 「うっ、なんで?」  元凶のイタチ獣人は、細い糸目を笑みの形で更に細めて白露を見下ろす。 「暴れるんじゃないぞ、あんまり騒ぐと鞭で打つからな? さあて、これでよし」  ニシシとほくそ笑んだイタチ獣人に、手から下の部分に麻布を被せられる。一見して縛られているとわからないようにされてしまった。 「ちょっと、待ってください」 「騒ぐなと言っただろう、打たれたいのか?」  鋭い目で見下ろされて小刻みに首を横に振った。フンと鼻息を鳴らしたイタチ獣人は、荷車の引き手を持ち上げて歩きはじめる。助けを求めたくて周りを見渡してみるが、目があうような距離に人はいなかった。村はみるみるうちに遠ざかってしまう。  彼は白露が辿ってきた道と反対方向である、皇都方面への道を進みはじめた。松の木を見上げながら途方に暮れる。鞭で打たれたくはないので、あまり刺激をしないように心がけながら遠慮がちに声をかけてみた。 「あの、縄を取ってくれませんか」 「嫌だよ。おめえは珍しいから、(げん)国から来てる商人に引き渡して、紹介料をいただくんだ」 「それって、お仕事をさせられるってことですか?」 「んー? そうそう、まあそんなもんだ」  適当なイタチ獣人の言葉に白露は首を捻った。この人は嘘つきだから、仕事というのも本当のことを言っているのかどうかわからない。

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