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第6話

 縛られた足を縮めて手の方に近づける。足の紐を指先でたどってみるが、太い縄でぐるぐる巻きにされていて簡単には取れそうになかった。 (おかしいな、なんでこんな事になっちゃったんだろう)  旅に出て早々に捕まるなんてついていない。ここはまだ国の辺境に近いのだろう、人とすれ違う気配もなかった。 「へへへ、それにしても俺はついてるなあ。パンダ獣人なんて、すげえ値段で売れるぞ」  ごく小さな声で呟かれた本音が漏れ聞こえて、里長の家に雷が落ちた時と同じくらい驚いた。思わず叫びそうになって慌てて声を飲み込む。隣の国では人が売れるのか……  この世にはパンダ獣人を捕らえて売ろうとする存在がいるなんて、想像したこともなかった。  白露の住んでいる麒秀(きしゅう)国は治安がよくて平和な国らしいと両親から聞いている。他国に売られてしまえば身の安全は保証されないと予感し、顔を青くした。 (なんとか隙を見つけ出して、逃げださないと)  イタチ獣人は慣れた足捌きで荷車を引いて、松の林を順調に進んでいる。白露は身を固くしながら一生懸命に考えた。 (ただ暴れても怪我をするだけだよねえ。どうしようかな)  しばらく荷車に揺られた末に、白露は商人を信じるフリをすることにした。油断させておいて逃げ出す隙を見つけよう。 「ちょうど仕事を探しているところだったので、ありがたいです。ぜひ玄国へ連れていってください」 「おお、物分かりがいいな。とっておきの仕事を紹介してやるよ、ひひっ」 (うーん、怖いなあ。何をさせる気なんだろう、きっとろくなことじゃないんだろうな。誰か助けを求められそうな人とすれ違えますように)  周りを見渡しても松の林が広がるばかりで、人っ子一人いない。  ため息を吐いた白露は、下手くそな鼻歌を歌う商人の背中に声をかけた。 「今からどこへ行くんですか?」 「どこだっていいだろ? そこで揺られてりゃ着くからよ」  あまり皇都から遠ざかってしまうと道がわからなくなりそうだ。逃走に使えそうな物がないか確かめたくて、白露を取り囲むように置かれた壺や枯れ草の束を見渡した。

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