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第7話

(これはなんだろう……たくさん積んであるし、商品なのかな)  白露にとっての商人といえば、半年に一度村を訪れる馬おじさんのことだ。彼が持ってきていた物は珍しいものばかりで、団子や(くし)、服などを白露の母が好んで買っていた。お金を払うことはほとんどなくて、竹籠や竹細工との物々交換が主だった。  ここには女子供が好みそうな物は存在せず、大量に置かれた壺の中からは独特の刺激臭が漂ってくる。 「おじさん、この壺は何?」 「あー? 商品だよ。杏の漬物。漬けてあるのは杏だけじゃないけどな」 「漬物……」  なんだろう、食べ物が発酵しているというよりは、薬で苦い匂いを誤魔化しているような嫌な臭いがする。中身が気になってしょうがないが、残念ながら手を縛られているから開けられそうにない。  荷車はガタゴト音をたてながら、三叉路のうち細い方の道へと曲がった。そっちに行ったら皇都から遠ざかってしまうと、白露はとっさに立ちあがろうとした。揺れる荷車の上でそんな真似をしたから、バランスを崩して壺の間に倒れてしまう。 「うわっ、あたっ!」 「おい、何してる! 暴れるんじゃねえ!」  転んだ拍子に、布に包んであった枯れ草の束が荷車から落ちてバラけてしまったようだ。悪態をついた商人は枯れ草を拾いはじめる。 「ごめんなさい」 「おめえな、コイツはただの草じゃねえんだぞ! 下手したらおめえよりよっぽど儲かる物なんだ!」 「それってなんですか?」 「ああ⁉︎ なんでもいいだろ、テメェも手伝いやがれ!」 (手を縛られているのにどうやって?)  枯れ草の苦い臭いに顔をしかめながら途方にくれていると、前方から数人の男性がやってきた。  槍を携えていて、強そうな人ばかりだ。なんの集団なのかと眺めていると、一番先頭を歩いていた立派な体格の狼獣人が商人に声をかけてきた。 「おい、その草はなんだ」 「だから聞いてる暇があったら手伝え、玄国に着く前に警吏(けいり)にでも見つかっちまったら……」  イタチ商人は顔を上げて、話しかけてきた人物にギョッと目を剥いた後、下手くそな笑みを作った。 「あ、いえいえ警吏のお方を煩わせるような、大した物ではございませんので」 「それはなんだと聞いているんだ、まさか吸い草じゃねえだろうな?」 「いえいえそんなまさか! あ、通行の邪魔をして申し訳ありませんね、もう行きますから」  商人は草を集めきるのを諦めて早々に出発しようとしている。

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