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第8話

 チャンスは今しかない。白露は声を張り上げた。 「すみません助けてください、隣の国に売られそうなんです!」 「バカテメェこの野郎! すみません、親戚の子どもなんですがホラ吹き野郎で手を焼いていまして」 「違います、この人は他人です、通りがかりの村で騙されたんです! 縛られていて身動きがとれません」  縄を巻かれた腕を見せると、警吏のお兄さん達が顔色を変えた。ギロリと睨みつけられたイタチ獣人は、ひぃと情けない声を上げる。 「話を聞かせてもらおうか」 「ひ、そんな……なんでこんなところに警吏がいるんだよっ!」  イタチ獣人は怖い警吏のお兄さん達に取り押さえられて、荷物を改められることになった。白露は荷車から下ろしてもらい、警吏の人に手足の縄を切ってもらう。ホッと笑顔が溢れた。  赤くなった手首をさすっていると、黒髪に黒い耳の立派な体格をした狼獣人が白露の方に駆け寄ってきた。彼は白露を安心させるようににかりと笑う。 「災難だったな、アンタ。ん? この匂いは……?」  狼獣人は白露の匂いをスンスンと嗅いだ。彼は目を閉じて香りを吸い込むと、自信ありげに微笑みかけてくる。 「アンタ、オメガだな?」  迫力のある美形に顔を近づけられて一歩後退りそうになったが、この人たちは悪人を取り締まる側の人だと思い直して背筋を伸ばした。 「はい、そうです」 「そうか。連れと(はぐ)れたのか?」 「いえ、一人で旅をしていました。皇都に向かうところなんです」  狼獣人は目を見張る。素早く後ろを振り向いて、部下らしき獣人達と話し合いを始めた。オメガが一人で旅をするなんて、と話し合っているのが漏れ聞こえてくる。  何度か頷いた彼は部下に指示を出した後、白露に微笑みかける。 「俺達も皇都に戻るところなんだ。アンタも一緒に来ないか? アンタみたいな可愛らしいオメガの少年が一人旅をするなんて、また同じような事件が起こってもおかしくない」 「いいんですか? ぜひお願いします」  白露は警吏達についていくことになった。心強い連れができてよかったと胸を撫で下ろす。狼獣人は自分の胸元を叩いた。 「俺は太狼。見ての通り狼獣人だ。アンタは?」 「僕は白露、パンダ獣人です」 「パンダ獣人だって⁉︎ あの幻の?」  周囲の警吏も口々に、本当に実在したのかなどと噂をしている。 「もう何十年も里から出てきていないんだろう? 最後にパンダ獣人を見かけたのは五十年も前だって聞いたよ」 「熊獣人と一見同じに見えるが、奴らよりも小さくて可愛らしい見た目をしていると聞いたことがある。本当みたいだな」 「尻尾の色も耳と違うらしいぞ」  よっぽど珍しいのか、警吏全員から穴が開きそうなほど見つめられて肩を縮こませた。

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