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第10話
新たな食の気配に夢中になっていた白露は、ハッと立ち上がり辺りを見渡した。
(いけない。つい匂いに夢中になって、お手伝いするのを忘れてた)
村のみんなは白露がのんびりしていて色々な物に気を取られやすいと知っているから、さりげなく次にすることを教えてくれたり、手伝いをしてほしいことがあれば声をかけてくれていた。
ここだと自分から声をかけないと、何も手伝わせてもらえなさそうだ。白露は急いで太狼の元へ駆け寄った。
「あの、僕も何か手伝いたいです」
「いや、別にいいって。疲れただろ? 休んでおけよ」
長い天幕の柱を抱えた太狼は、白露に背を向けて去っていく。だったら別の人に聞いてみようと、警吏の一人を捕まえた。
「すみません、何か手伝えることはありますか?」
「いいえ、大丈夫ですよ! どうぞ、あちらで腰掛けていてください」
焚き火の側に敷き布が用意されていた。白露は肩を落として焚き火の側まで戻っていく。背後から警吏の潜めた声が聞こえてきた。
「はあ、緊張した」
「可愛いよなあ、成人してるのかな」
「あんな子が僕の番になってくれたらなあ」
「やめとけよ、皇帝様の番様になるかもしれないお人だろう?」
(えっ? 皇帝様?)
白露はどきりと肩を竦めた。胸の鼓動が早くなる。噂話をしている二人に思いきって尋ねてみた。
「あの、皇帝様が番探しをしているのですか?」
「ん? ああ、そうなんです。国中のオメガの中から運命の番を探されているそうで」
つまり、さっき太狼が言っていた『あいつ』とは、皇帝様のことだったのか。
もしも皇帝様の運命の番だったらどうしよう……ドキドキしながら考えてみたけれど、顔も名前も知らない人が番になるなんて想像がつかなかった。
(確か、皇帝様は麒麟獣人なんだよね。とても貴重で珍しい種の獣人だって聞いた覚えがある)
村で一番物知りの村長の家には立派な絵が飾ってあって、そこには鱗を帯びた馬のような竜のような、幻想的な獣の姿が描かれていた。
麒麟は遥か昔に天からやってきた神の使いの幻獣で、その末裔である麒麟獣人たちは、麒麟と同じ角を持つらしい。
パンダ獣人のように珍しい種獣人だと聞いていたから、勝手に親近感を抱いていたけれど、同時に雲の上の存在だということも理解している。
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