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第12話
数日がたち太狼とすっかり打ち解けた頃に、皇都に辿りついた。そびえ立つ石造りの城壁を、白露はぽかんと口を開けながら見上げる。
「うわあ、大きい」
「立派なもんだろう。入り口はこっちだぞ」
太狼の案内に従って門番の前に歩み出る。門番は太狼の姿を目にして顔を緊張に強張らせながら敬礼していた。薄々勘づいてはいたが、やはり太狼は偉い人らしい。すぐに門の中へ通された。
「さあ白露、皇帝に会いにいこう」
「えっ今から?」
会ってほしいと言われてはいたけれど、まさか本当のことだなんて。白露の胸はドキドキと高鳴りはじめた。太狼は官吏達に指示を出している。
「アンタらは持ち場に戻ってくれ」
「あ、ちょっと待ってください」
道中お世話になったお礼にと、竹を編んで作った小皿を配った。旅の間に路銀に困ったら売ろうと思っていたが、太狼達のおかげで活用する機会がなかった物だ。
「ありがとうございます、白露様!」
「もしかすると、未来の番様からの贈り物になるかもしれないですね」
「大事にします」
好意的に受け取ってもらえて、白露はお礼を告げて警吏達と別れた。門番が手配した案内人によって皇都内へ足を踏み入れる。
白露が今まで見たことがないくらい、たくさんの獣人が通りを歩いている。軒を連ねる店には果物や穀物、瓶や壺、光沢を放つ布地などありとあらゆる物が売られていて、白露の好奇心を大いに刺激した。
「ねえ太狼、ちょっとだけ見にいったらだめですか?」
「後でな。先にあいつに会いにいこう」
残念ながら、指を咥えて通りすぎることしかできなかった。皇城の門番にも話は通っていたらしく、すんなりと城の中へ通される。
赤い門構えや雲の中に麒麟が駆ける雲麒 模様の金柱、金箔で縁取られた香机、龍の描かれた青磁 の壺などに見惚れて足が遅くなる度に、太狼は苦笑しながら白露の背を押す。
ハッと我に返ってチャキチャキと足を動かし、遅れないようについていった。
赤い絨毯が敷かれた階段を登ると、そこにも門番がいた。今まで出会った門番よりも高価そうな装いをしていて、帯には複雑な刺繍が施されている。
「皇帝様に客人をお連れした」
「入れ」
ガンッと槍の石突 を地面に打ち鳴らされて、びくりと肩を竦めた。下手な真似をすると容赦しないと言っているようで、白露は表情を引き締める。重厚な扉を押し開けられて、中に入るよう促された。
「許しがあるまで皇上 の顔を見ないようにな。首を垂れて跪いてくれ」
太狼の言う通りに下を向いて歩き、指示された場所で両膝をついた。
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