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第15話

 悪戯する子どもを止める時と同じように手のひらを重ねると、琉麒は奇妙な顔をした。 「白露、なぜ止める? これから寝ようではないか」 「ええ、そうですね。もう寝ましょう。では歌いますね、僕の子守唄はすぐ寝られるって村でも評判だったんですよ」 「いや、寝るの意味が違うのだが」  何か言いかけた琉麒だったが、白露が穏やかな旋律を歌いはじめると途端に目頭が降りてくる。 「な、これは……何か、術を……はく、ろ……」  一節歌い終わる前に、琉麒は健やかな寝息をたてはじめた。よっぽど疲労が溜まっていたのだろうか、里でもここまで早く眠る子はいない。  瞳を閉じると麗しい青玻璃の目の印象が薄れて、顔の白さがよくわかる。より隈が目立って見えて、白露は案じるように彼の目の下を指先でなぞった。 (皇帝のお仕事って忙しいんだね。ゆっくり寝かせてあげよう)  白露はしばらくの間、琉麒の寝顔を見つめていた。立派な黒角や竹を斜めに切って根本を窄めたような形の耳が物珍しく、触ってみたい衝動にかられる。 (ちょっとだけ……)  角を指先で撫でてみると、思ったよりも固い感触がしてすぐに手を引っ込めた。寝ている皇帝を勝手に触るだなんて、なんだかいけないことをしているような気分になってきた。  けれどどうしても興味を惹かれる。見るだけならいいかなと、飽きることなく彼の寝顔に見入った。  心いくまで琉麒を眺めてから、ベッドの中央に寄せた。さて、これから何をしたらいいんだろうと白露は首を傾げる。 (琉麒は僕のことを運命の番だって言ってた……だったら、母さんと父さんみたいに助け合える関係になりたいな)  いつだって仲がいい白露の両親に、その秘訣は何かと聞いた里の者がいた。その時、母さんはこう答えていた。 『私達夫婦はなんでも分け合うのさ。苦しいことも喜びも一緒に感じて、困っていたら相手の仕事を代わってあげる。そうやって思いやりを持って過ごすから、仲がいいんじゃないかねえ』  番というのは夫婦のことで間違いないだろう。琉麒が目の下に隈をこさえているのは、きっと仕事が大変だからだ。白露にできることがあったら手伝いたい。  考えた末に、白露は琉麒に上かけをかけて寝室の出口へと向かう。

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