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第16話

 扉を押し開けると、扉前に控えていた護衛の一人と目があった。 「番様? 皇上と交流をされるのではなかったのでしょうか」 「琉麒は寝ちゃいました。あの、ちょっと聞きたいんだけどいいですか。琉麒がするはずだったお仕事の中で、僕が手伝える物があったりしますか?」  護衛達は顔を見合わせて相談していたが、しばらくすると一人がふさふさの狐尻尾をなびかせながら駆けていった。猪獣人が生真面目な口調で告げる。 「少々お待ちください、仕事内容がわかる者に問い合わせをしております」 「わかりました。部屋で待っていますね」  白露が琉麒の元に戻ると、彼は変わらず眠っていた。寝台に染み込んだ彼自身の香りを目を閉じて吸い込む。  深呼吸を続けていると、扉からコンコンと音が聞こえた。芳しい匂いを振り切って部屋の出入り口に駆けつける。 「はーい」  扉の外には黒い髪の狼獣人が立っていた。白露にひらひらと手を振っている。 「太狼!」 「よお、白露。腰は無事か?」 「腰、ですか?」 「なんだ、何もされてねえのか」  彼は寝室の奥で眠っている琉麒を一目見ると、おお、と意外そうな声を出した。 「寝てる……アンタが寝かしつけてくれたのか?」 「はい、そうです」  狼獣人は弾かれたように笑って、白露の肩を叩いた。 「ははっ、すごいじゃないか! さすが運命の番様だな! 寝て休めと言ってもなかなか寝てくれないヤツで困ってたんだよ」 「番様だなんて……白露って呼んでください」 「そうか、それなら遠慮なく今まで通り呼ばせてもらうわ」  太狼はニカリと笑った。 「それで、アンタが呼んでるって聞いたんだが。仕事がしたいんだって?」 「はい、ぜひ! 琉麒は三日も寝てないって言うんです。すごく忙しいのでしょう? 何か僕にできるお仕事があったら手伝わせてください」  白露は胸の前でグッと手を握りしめ、気合いの入ったポーズをとって見せた。太狼は困ったように頭を掻く。 「気持ちはありがたいんだがな……白露は字が読めるのか?」 「いいえ、読んだことありません」 「計算は?」 「数は数えられますよ、百までなら」 「今までにやったことがある仕事はなんだ?」 「竹を切ったり裂いたりして、竹籠や装飾品を作っていました」 「うーん、そうか」  ニコニコしながら答える白露に、太狼はうんうんと納得したように頷いた。 「そうだな。アンタには重要な使命がある。これは白露にしかできないことだ」 「なんですか?」  太狼はもったいつけた口調で、人差し指を立てた。

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