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第19話

 パッと閃いて琉麒の部屋に向かうと、扉の前に立っている猪獣人が声をかけてきた。 「番様、どうされましたか?」 「ちょっとだけ琉麒の部屋に入ってもいい?」 「ええ、どうぞ。番様であればいつでも入ってよいですよ」  部屋の中はなんとも言い難い素敵な香りに満ちている。胸いっぱいに香りを吸い込んで、いくつか置いてある飾り枕を一つ手にとった。 「これ、借りていってもいいかな?」 「もちろんです」  許可を得たので、飾り枕を両手で抱えて隣の部屋に戻った。枕を抱きしめながら寝台に横になると、ふんわりと伽羅の香りがしてたまらなく心地いい。 「ふふ、いい匂い」  琉麒の匂いを嗅いでいると、お腹の奥が温かくなってふわふわするような感じがする。上掛けを被ってポカポカと指先まで温まる頃には、白露は健やかな寝息を立てていた。 ***** 「白露、起きなさい」 「ぅえ?」  涼やかな美声が頭上から降ってくる。眠い目を擦りながらなんとか開くと、眼前には金の髪の神々しい美形がいた。辺りはすっかり暗かったが、金の髪は燭台の光を受けてキラキラと輝いて見える。 「あ、琉麒……」 「目が覚めたようだね。夕餉(ゆうげ)をとらないか?」 「食べます」 (夕ご飯! 何がでるんだろう?)  白露はすっかり笹以外の食べ物を気に入っていたので、夕餉と聞いただけで口の中によだれが出てきた。  しゃっきりと体を起こした白露が飾り枕を抱えているのに気づいた琉麒が、意外そうに目を見張る。 「それは私の部屋から持っていったのか?」 「はい、お借りしました! すっごくいい匂いがするんです」  にぱっと笑いかけると、琉麒は頬を染めて白露に見入った。 「そ、そうか……そのまま借りていてもよい」 「ありがとうございます。でも匂いが薄くなっちゃうので一度お返しして、また借りますね」 「そのような物と共に寝ずとも、私の隣で寝てもらってよかったのだが」 「そうなんですか? 狭くないですか?」  白露の母は父のいびきがうるさいと言って別々に寝ていたから、一緒に寝てもいいと言われて不安になった。 (僕も寝ている間にいびきをかかないといいんだけど。寝相が悪かったりして)  琉麒は華が咲き誇るような笑顔を見せた。 「少々手狭でも気にしない。白露が私と共寝をしてくれると嬉しい」 「そうですか、わかりました。もしご迷惑に感じたらいつでも追い出してください」 「そのようなことはしないよ。ふふ……気を楽にして、我が家のようにくつろいでおくれ。そろそろ着替えて食事を摂りにいこうか。私も用意をしてくる」  琉麒の部屋は白露の部屋と繋がっているらしく、皇帝は廊下を経由せずに自室に戻った。

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