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第20話

 入れかわりのように、廊下側の扉から魅音が入室してくる。 「さあ白露様、お召し物を交換致しましょう」  白露は刺繍がふんだんに施された、裾の長い深衣を着せられた。黒地に金の麒麟が舞い踊っていて、差し色に朱色が使われている豪華な衣装に気後れしてしまう。 「これでご飯を食べるの? 汚さないかなあ」 「皇上とお二人での食事になりますので、そう固くならずともよいのですよ。尻尾穴の位置を調整致しますので、そのまま動かないでくださいね……まあ」  現れた白露の尻尾を見て、魅音は猫の尾をそわそわとくねらせた。 「耳が黒いのに尻尾は白い……白露様は本当にパンダ獣人なのですね」 「珍しい?」 「ええ。素晴らしい吉兆ですわ。皇帝の治世も明るいと、みな白露様のことを歓迎するでしょう」 「吉兆ってなに?」 「良い兆しのことでございます。四大神獣である青龍、朱雀、白虎、玄武の他に麒麟獣人が神の子孫だと伝えられておりますが、一説によると元々はパンダ獣人も神の眷属であったという逸話がございます」 「え、そうなの?」 「はい。麒麟獣人であらせられる皇上の番として、白露様ほど相応しい方はおられませんわ」  白露は里のみんなの顔を思い浮かべてみたが、自分を含めてみんなどこかぽやんとした顔立ちをしていて、とても琉麒の様な神々しさは感じられない。 (僕は琉麒みたいに輝かしいほどの美しさはないんだけど、いいのかなあ)  されるがままに着付けられること数分、やっと解放された白露は迎えにきた琉麒に褒め称えられる。 「白露、似合っている。禁欲的な美しさがあるな、みなが君に見惚れないか心配だ」 「琉麒の方が綺麗でかっこいいよ」  皇帝は出会った時に着ていた赤と黒の上衣下裳(じょういかしょう)の礼服ではなく、夏の空のような青色の深衣を身につけていた。さりげなく刺繍の柄が自分とおそろいなのに気づいて、襟元の刺繍を指でなぞる。 「これって麒麟だよね? 麒麟柄が好きなの?」 「好きというよりは、皇帝とその番のみが身につけることができる特別な図案だ。いずれパンダ柄の刺繍服も作らせよう、私はそちらの方が好きになる予感がする」  白露は琉麒がパンダ柄の深衣を着ているところを想像してみた。金色のパンダが服の上で愉快に踊っている図案を思い浮かべて、口角が自然と釣り上がる。 「うん、見てみたいな」 「では衣装係に注文することにしよう。さあ、こちらにおいで」  琉麒に手を引かれて、欄干で囲われた渡り廊下を歩く。要所に明かりが灯された中庭は幻想的で、白露はあちこちをキョロキョロと見回した。 「そんなによそ見をすると落ちるよ、もっと中央に寄って」 「うん」  グッと腰を引かれて、とくりと心臓が跳ねる。ほとんど胸の中に抱きかかえられるような距離まで近づくと、たまらなくいい匂いがした。

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