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第21話
温かな体温が触れた場所から伝わってきて、どうにも離れ難い気分になる。
(初めて会ったっていうのに親しみを感じちゃうな。もっと琉麒のことが知りたい)
腕にくっついたまま宴部屋にたどり着いた。この部屋だけで白露の家くらい大きい。食卓が中央に置かれていて周囲には花器や飾り棚が備えつけられている。優美な印象の部屋だなあと、またも熱心に視線を走らせてしまう。
白露は琉麒の隣に促され、凝った模様の木組みで構成された椅子に腰掛ける。給仕の者が彩りが鮮やかな料理を食卓の上に次々に運んでくると、白露は歓声を上げた。
「うわあ……!」
太狼たちと食べた食事も美味しかったけれど、宮廷の料理は格別に手が込んでいて、まるで芸術品のようだ。
「どれでも好きなものを食べなさい」
「うん、ありがとう!」
艶々のソースがかけられた丸鶏に、美しく盛りつけられた青菜の炒め物、鳥や花の形に作られた饅頭 などに、白露の視線は釘づけになる。中でも一際気になったのは、甘い香りがする果物だった。桃色を帯びた白い果肉を指さす。
「これはなんていう果物なの?」
「桃だ。食べてごらん」
琉麒が白露の口元に桃を差しだすと、給仕の者が目を丸くしていた。なんだろうと思いながら差し出された果肉にかじりつくと、芳しい甘露が瑞々しく口の中で弾けた。
「わっ、美味しいー!」
白露は夢中で桃を味わった。甘くてとろけるような歯触りで、食べると幸せな気持ちになる。ペロリと平らげ、次の一口をねだると琉麒は嬉々として白露の口に桃を運んだ。
「気に入ったか」
「うん! こんなに美味しい果物は初めて食べたよ!」
琉麒は上機嫌で白露に桃を与え、白露も笑顔で頬張った。
「君はパンダ獣人だと聞いている。故郷ではどのような暮らしをしていたんだ?」
「どんなって、変わったことはなにもないよ。朝起きたら笹を食べて、竹を切り倒したり竹細工を作ったりして、また笹を食べて。午後は水浴びしたり、お昼寝したりするんだ。それでまた笹を食べる」
「笹しか食べないのか」
「普段はね。時々木の実をかじることもあるよ。それと春には筍が生えるでしょ? だから春はご馳走が食べ放題なんだ」
筍の仄かな甘味と柔らかな歯応えを思い出して、白露は春が待ち遠しくなった。今は夏の初めだから、まだまだ先の話だ。
「そうか。私達は笹を食べないが、筍であれば調理して口にできる。春になったら一緒に食べようか」
琉麒は優しい微笑みを白露に向けた。例え話ではなく、白露と筍を食べることを本当に楽しみにしていると表情から伝わってきて、にこっと口の端を緩めた。
「そうしよう。楽しみだなあ」
他にも里の様子や、里にはベータしかいなかったから皇都に出てきたというような話をすると、琉麒は些細なことでも興味深そうに相槌を打ってくれる。
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