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第22話

 白露は嬉しくなって、ぴとりと琉麒に身体を寄せた。すると琉麒は白露の身体を抱えて膝の上に乗せてしまう。 「わあっ」 「この方がくっついていられるね」 「う、うん」  背の高い琉麒を上から見下ろすのは、また気分が違って鼓動が高鳴る。下から見上げても上から見下ろしても一分の隙もなく美麗で、白露はポーッと彼に見惚れた。 (本当に綺麗な人……この人が僕の運命の番なんだ)  薄い唇が食べ物を口に運び、上下に顎が動いた後喉仏がごくんと動く。優雅なのに凛々しくもあって、食事をしているだけなのに様になる。ずっと見つめていると体がぽかぽかと温まってきて、白露は首を捻った。 「どうしたんだ?」 「なんだろう、琉麒を見ていると心臓がドクドクうるさいんだ」  琉麒は白露の言葉を聞いて目を細める。ささやくように声を潜めた。 「それはね白露、運命の番である私に本能的に惹かれているからだよ。私も同じだ、ほら」  琉麒が大きな手のひらで白露の頭を胸元に引き寄せた。俯いて彼の胸に顔を寄せると、パンダ耳が大きく脈打つ心臓の音を捉える。 「わかるか? 君と共にいると気分が舞い上がってしょうがない」 「琉麒も?」 「そうだ」 「そっか、よかった……僕、こんな風になるのは初めてだからびっくりした」  うっと押し殺したような声が琉麒の喉奥から聞こえて、白露は慌てて顔を上げた。 「え、どうしたの?」 「……白露」  急に改まって両肩に手を置いた琉麒は、真剣な声音で語りかける。 「なに?」 「優しくする。今すぐ寝室に行こう」 「はあ……?」  優しくするという言葉と、寝室に行こうと誘う意図が白露の頭の中で繋がらず、間抜けな返事をしてしまう。琉麒は虚を突かれたように口を半開きにした。 「君はもしかして、本気でなにも知らないのかな」 「ごめんなさい、なんの話?」  首を傾げて尋ねると、琉麒は白露を安心させるように完璧な笑みを浮かべた。 「謝ることはない。全て私に任せておけば大丈夫だ。今までに発情状態になったことはあるか?」 「ないよ」 「そうか……今も甘い花の匂いが微かにするけれど、発情香ではないな」  首元で息を吸われて肩を竦める。汗臭くないか気になってしまい、体を捩って琉麒から離れると彼は苦笑した。頬に熱が昇るのを自覚しながら、チラリと目を見て問いかける。 「いい匂いだと思う?」 「ああ。茉莉花の匂いだ」 「茉莉花って……」 「白く小さな花を咲かせる蔓状の植物だ。香ならすぐに用意できるから、今度焚いてあげよう」 「わあ、ありがとう」  話の区切りがついたところで膝から降ろされる。低く凛々しい声で促された。 「寝室に向かおう」 「うん……」  琉麒と少し離れただけで恋しくなってしまい、無意識に彼の腕に手をかけた。

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