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第23話 初めてのふれあい

 白露の人恋しそうな様子を見て、琉麒は白露を両腕に抱え上げる。急に目線が高くなり驚いた白露は、琉麒の首にしがみついた。 「わ、ひゃ!」 「しっかり捕まっていて」  琉麒は白露を抱えたまま、滑るような足取りで廊下を渡っていく。意外と早足な琉麒にびっくりしながら、白露はされるがままに寝室へと逆戻りした。  猪獣人と狐獣人が守る部屋の扉を通りすぎて、琉麒の寝台の端に降ろされる。丁寧に靴を脱がされて、自身も靴紐を解いた琉麒が白露の隣に腰かけた。 (優しくするって、なにをされるんだろう)  燭台の灯りだけが部屋の中を照らす様がなんとも心細く感じて、知らない場所にいると強く意識してしまう。白露は上擦った声で問いかけた。 「ねえ、さっきはよく寝られた?」 「とてもね。驚いたよ、君は術を使えるのか」 「術?」  自分は子守唄が格段に上手いものだとばかり思っていたが、実は不思議な力で寝かしつけていたというのだろうか。琉麒は頷いた。 「アルファには術を使える者が多いんだ。例えば千里先の音を聞いたり、死者と交信できたりする者もいる」 「へえ、すごいね。琉麒もできるの?」 「ああ。私も術が使える」  皇帝様をやっているだけでもすごいのに、術まで使えるなんて向かうところ敵なしだなあと白露は感激した。 「どんな術なの? 知りたい!」 「あまり愉快な能力ではないから、君相手には使いたくない。また機会があれば見せよう」  愉快じゃない能力ってどんなものだろう、しかめっつらになって表情が動かなくなってしまう能力だろうかと、白露は想像をめぐらせた。  琉麒は顎に手を添えて考えこんでいる。 「通常オメガやベータは術を使えないはずなんだが……白露にはまだ発情期も来ていないというし、特別なオメガなのかもしれない」 「そうなんだ……」  里にいる時からたった一人のオメガということで異質だったけれど、何人もオメガを知っていそうな琉麒にとっても、白露は普通のオメガと違って見えるらしい。 (運命の番って、普通じゃないオメガでも成立するものなのかな? 琉麒のことをがっかりさせたくないなあ)  垂れ眉をさらに垂れさせてしょんぼりしていると、眉尻を指でなぞられる。 「案じることはない。私と抱き合えば発情期も来るかもしれないぞ」  琉麒は白露の髪を指先で掻き上げると、顔を寄せてきた。麗しい青玻璃の瞳が近づいてくるのを夢心地で見つめていると、そっと唇を啄まれる。柔らかな感触にきょとんと目を瞬かせると、続いてもう一度、ついて離れてを繰り返す。

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