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第30話

(番になるなら琉麒がいいな。彼と一緒に暮らしてみたいし、力になりたい)  側にいるだけで湧きあがる幸福感に酔いしれながら、白露は淡く微笑んだ。 「運命の番のことはよくわからないけれど、琉麒と一緒にいたい。番になりたいなって思うよ」 「そうか」  琉麒は嬉しそうに破顔し、白露の首筋にチュッとキスを落とした。ピリッと痛みが走って、思わず声を上げる。 「いたっ」 「痛かったか? すまないね……私の番だと主張したくて跡をつけてしまった」 「何かついてるの?」  琉麒の指先が指し示した卓の上に、金縁の鏡が置いてある。目を凝らして見てみると、キスをされた場所が赤くなっていた。なんだか恥ずかしいもののように感じて首の付け根を手で隠すと、琉麒は白露の手のひらの上に彼の手を被せた。 「いつか、ここを噛むから」  鏡の中でうっそりと笑う琉麒はひどく妖艶で、白露はたちまち頬を赤らめた。初々しい様子を満足気に眺めた琉麒は、鏡から視線を外し直接白露を流し見た。 「君に首輪を贈りたい。誰か別の獣人に噛まれないようにしなければな。つけてくれるか?」 「う、うん。僕も琉麒以外には噛まれたくないから」 「いい子だ」  黒髪をパンダ耳ごと撫でられて、心地良い指先の動きにうっとりと目を閉じる。給仕の者が大皿を抱えてやってきて、慌てて居住まいを正した。琉麒は白露が慌てる様子を目にしておかしそうに笑う。 「そうだ白露、君の部屋に茉莉花の香を届けるよう手配しておいた。帰ったら確認してみるといい」 「わあ、ありがとう」  自分の匂いは自分ではわからないが、香なら嗅げるかもしれない。楽しみが一つ増えたと白露も笑顔になった。  食事の後、琉麒はお茶を飲む間もなく足早に執務へと戻っていった。また夜に会おうと頬の輪郭をなぞられて、赤面しながら手を振る。 (今夜はまた、昨日みたいなことをされちゃうのかな)  白露はそわそわと騒ぐ気持ちを落ち着かせたくて、琉麒からもらった香を焚いてもらえるよう魅音にお願いしてみた。甘くて濃密な香りが部屋の中全体を覆い、白露は胸いっぱいに香の匂いを吸ってみる。 (いい匂いだけど、琉麒の香りの方が僕は好きだなあ)  嗅ぐだけで幸福な気持ちになって、ずっと嗅いでいたくなる癖になるあの香り。うっとりと目をつむると急に首筋の跡をつけられた場所からピリッとした痛みが走り、わずかに腹の奥が疼くような感覚がした。 「……?」  なんだろう、やっぱり落ち着かない気分が続いている。どうにかしたくて、白露は竹籠の中から笹を取りだして食べようとした。しかし籠の奥から笹を取り出した瞬間、眉をひそめることになる。

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