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第31話

「ありゃ、萎びてる」  笹はすっかり水分を失って、葉の端が変色しはじめていた。これじゃ食べても美味しくないと、白露は肩を落とす。魅音はそんな彼に気づいて、猫獣人らしいしなやかな足運びで白露に近づいてきて、心配そうに声をかけた。 「どうされましたか?」 「笹が枯れちゃったんだ、ほら」  耳をしょんぼりと伏せながら魅音の目の前に笹を広げると、彼女は尻尾をゆらめかせて考えるそぶりを見せた。 「笹がご所望でしたら、茶室の側に竹が生えておりますよ」 「そうなの⁉︎ 行きたい!」 「では手配致します」  庭に出てもいいという許可をもらってから、外出用の深衣に着替えさせられた。麒麟柄の刺繍ではない紺地に銀の刺繍が入った外衣を着せられ、疑問が胸のうちに広がる。 「あれ、外に出る時はこの服なんだ?」 「ええ。申し訳ありませんがまだ正式に皇上の番だとお披露目ができませんので、他の華族に目が触れると要らぬ噂が立ってしまいます。こちらの服装でもよろしいでしょうか」 「全然いいよ」  いつも着せられている衣装よりは簡素で軽いので、白露としては歓迎だった。そう思っていたら、頭には豪奢な帽子を被せられて腕にも飾りを巻かれ、首輪もつけられてしまう。  さっき喜んだのは訂正しよう、いつもより重い。白露は遠慮がちに意見を主張した。 「こんなに綺麗にしなくてもいいと思うんだけど」 「華族として外出されるなら、この程度は着飾りませんと。特に首は守らねばなりません。皇上からも改めて首輪を贈られることと存じますが、本日のところはこちらを着用致しましょう」  翡翠や水晶をあしらわれた豪華な首輪は、ずっしりと重かった。行って帰ってくるだけで肩が凝りそうだ。華族のオメガは大変なんだなあとため息を吐く。 (ううん、これからは琉麒の番として生きていくことになるんだから、こういう服装にも慣れなきゃだめだよね)  白露は背筋を伸ばして顎を引いた。鏡の中の自分は首輪のおかげで首筋の赤い跡が隠れて、普段通りの様子だった。内心ホッと胸を撫で下ろす。  キリッとした表情を心がけると、魅音に褒められた。 「堂々としていらっしゃって素敵です。お顔立ちも優美でございますから、生まれながらの華族に見えますわ。これでいきましょう」  ようやく外出を許されたので、狐獣人の護衛と魅音に付き添われて竹が生えているという茶室の庭へと向かう。白露のゆったりとした歩き方は華族の歩き方として及第点だったのか、特に注意は受けなかった。

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