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第32話 竹林にて
茶室へ続く小径は石畳で舗装されている。柳の木の間を潜っていくと、懐かしの竹林が姿を見せた。
「わあ、すごく新鮮な笹だ!」
ツヤツヤの葉っぱをぷちりと掴み取ってそのまま口に運ぶと、魅音と護衛が焦って止める。
「は、白露様⁉︎ 何をなさっておいででしょうか!」
「ん?」
魅音達の方を振り向きながらもしゃもしゃと葉っぱを咀嚼していると、竹林の奥の空き地から笑い声が聞こえてきた。
「笹を食べてる! 何それ、新しい美容法か何かなの?」
「ん、んむ、っ誰?」
ごくんと葉っぱを飲みこんで声の方向に顔を向けると、小柄な人影が現れた。十五歳くらいの少年だ。白く柔らかそうな髪の上に小さくて先が丸い耳がついている。目がくりっと大きくてかわいらしい顔立ちをしていた。
まつ毛が長くて鼻筋がシュッと通っていて、とても綺麗な子だ。白露が今まで見たことのある人の中で、琉麒の次に美しい人だなと思った。
「ボクは宇天、テンの獣人さ。キミは誰?」
「白露だよ、パンダ獣人なんだ」
「パンダ獣人ってよく知らないんだけど、笹を食べるのが普通なわけ?」
「そうだよ」
「ははっ、おっかしい! 笹の葉っぱなんて苦そうなのに、キミって変わってるね」
宇天はコロコロと笑ってから、白露を竹で作られた腰掛けへと誘った。
「ちょうど練習に飽きてたところなんだ、話につきあってよ」
「何の練習?」
彼の目線の先を辿ると、腰掛けの上に見知らぬ楽器が置いてあった。ひょうたんみたいな形の木の器の上に、細い竹がいくつも縦に接続されているような見た目をしている。
「笙 だよ。もう重くってさ、腕が痛くなってきちゃった」
宇天は綺麗に爪を伸ばした指先を白露の前でひらひらさせた。女の子みたいに綺麗な手だ。体つきも華奢だと全身に視線を巡らせ、彼のほっそりとした首に、高級そうな白い首輪が巻かれていることに気がついた。
「君もオメガなの?」
「そうさ。白露もでしょう? こっちに座って話そうよ」
自分以外のオメガに初めて出会った白露は、俄然この少年に興味が湧いた。
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