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第33話
いそいそと竹の腰掛けに座ろうとして、魅音に止められる。
「白露様、みだりに初対面の方のお隣に座るのはおやめになった方がよろしいかと」
「そうなの?」
宇天は魅音の訴えを聞いてムッと唇を尖らせた。
「付き人風情が、上流華族であるボクのすることに口を出さないでくれる?」
「申し訳ありません、ですが……」
魅音はためらうように口をつぐんだ。白露は宇天を観察する。帯も衿も銀糸が縫い込まれた高価そうな深衣を着ていた。背後には付き人もこっそり立っていて、わがままな主人ですみませんと言いたげな表情で頭を下げてくる。
宇天は瞳を怒らせて腕を組んでいる。白露はこそっと魅音に耳打ちした。
「彼は本当に華族の人で、危ない人とか不審者じゃないんだよね?」
「はい、それは間違いございません」
「だったら、少しだけお話させて。僕も宇天の話を聞いてみたいんだ。どうしてもダメだったら無理にとは言わないけど」
猫の耳が忙しなく動いて、魅音は狐護衛に目配せをした。護衛が眉をしかめながらも頷くと、魅音も渋々といった様子で許可を出してくれる。
(なんだろう、僕が他の人と関わるのはいけないことなんだろうか)
とにかく今回は話してもいいのだろうと判断して宇天の隣に座った。テン獣人の少年は面白くなさそうに魅音と護衛に視線をやった。
「キミの付き人は随分と過保護なんだね」
「僕が物知らずだから心配してくれているんだよ」
「笹の葉っぱを城内庭園で食べるくらいだものね、相当な世間知らずだ!」
宇天は笑いが堪えきれないといった様子でお腹を押さえた。もっと勉強しなきゃなあと白露は困ったように頬を掻く。ふわふわの黄色い尻尾を機嫌よさそうに振りながら、宇天は目を細めた。
「ねえ。ボクが皇都華族の常識を教えてあげようか」
「ほんと? 助かるよ!」
嬉しくて満面の笑みで返答すると、宇天は満更でもなさそうにふふんとほくそ笑んだ。彼の話は白露にとって全く知らない世界の出来事のようで、とても興味深い。
特に白露の興味を引いたのはオメガについての話だ。宇天にはもう発情期がきているらしい。
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