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第36話
湯浴みをさせてもらい寝衣に着替えてから寝台の上に横になる。一日中ずっと新しいことを頑張っていたせいか、寝台に寝転がると同時にどっと疲れを感じた。
「ふう……」
肌触りのいいシーツに顔を埋めて目をつむる。何度寝返りを打っても一向に気分が落ち着かない。白露にしては珍しく、いろいろと考えることがありすぎて目が冴えてしまったようだった。
(笹でも食べたら気分が落ち着くかなあ)
新しく収穫した笹を一枚竹籠から取り出して、そういえば魅音から皇帝に確認するまでは食べないでほしいとお願いされていたことを思い出す。
(一枚くらいだったら、食べても気づかれないかもしれない……ううん、だめだめ。約束は守らなきゃ。約束を守ることは、人と仲良くするための基本だもんね)
尊敬する両親の教えを思い出した白露は、未練がましく笹の葉を見つめながらも頑張って籠の中に戻す。好物の笹が目の前にあるのに食べられないせいで、さっきよりも余計に心が騒つく結果となった。
(うーん、だめだ。琉麒の部屋に行こう。一緒に寝てもいいって言ってたし、お邪魔させてもらおうっと)
皇帝の部屋に続く扉に手をかけてみると開いていたので、彼の部屋の寝台に寝転がり飾り枕を腕に抱え込むと、やっと安心できた。
部屋中に漂う高貴な香りに包まれながら、ぼんやりと格子窓から見える月を眺める。こんなにも遠いところに来てしまったけれど、月は変わらずに白露を見守ってくれているように感じた。
(きっと大丈夫だよね。慣れないことばかりで色々戸惑うけれど、琉麒は優しいし魅音も気遣ってくれる。今日は友達になれそうな子とも会えた)
しばらくは笹の音をのんびり聞くだけの贅沢な時間を過ごしたり、好きなだけ笹の葉を食べてゆっくりするのは難しそうだけれど、白露のことを大切にしてくれるアルファの番に出会えたし、住む場所だってある。
ご飯だってすごく美味しいし、友達になれそうな子とも知りあえた。白露は恵まれている方だと自分に言い聞かせる。
(まさか皇帝様が運命の番だなんて思ってもみなかったけれど。琉麒に相応しい番だってみんなに認めてもらえるように、がんばらなくちゃ)
琉麒も魅音も、それから太狼にも白露が無知であることに対して困っているような態度が見受けられた。早く物知りになりたい。
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