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第38話

琉麒の穏やかな声音が白露のパンダ耳を優しく撫でていく。 「君の話を聞かせて。昨日は昼餉の後どう過ごしたんだ?」 「あの後は、琉麒からもらった香を早速焚いたんだ」 「茉莉花の香か、気に入っただろうか?」 「いい匂いだったよ。でも僕は琉麒の匂いの方が好き」 「っ、そうか」  琉麒は突然白露をぎゅっと抱きしめた。なんで急に力強く抱きしめられたんだろうと思いながらも、彼の魅惑的な香りがふわんと香り幸福な気持ちになる。 「その後は笹を食べたくなったんだけど、手持ちの葉っぱが枯れちゃってたから竹林に出かけたんだ。そうしたら、宇天っていう名前のかわいい男の子に会ってね」 「宇天? ああ、葉家の子息か」 「知り合いなの?」 「知り合い……そうだな。互いに知ってはいる」  琉麒は言いづらそうに顔を背けた。なんだか気になる反応だけれど、聞いて白露にわかることだろうか。一瞬ためらった後でどういう知り合いなのか聞き返そうとすると、先に琉麒が話しはじめた。 「それで、その者がどうかしたのか?」 「華族の常識とか、オメガについて色々と教えてくれたんだ。面白い子だったからまた会えるといいな」  琉麒は考えるように数秒黙りこみ、白露の顔を気遣わしげに見つめる。 「白露、あまり彼とは会わない方がいいかもしれない」 「なんで?」 「将来的に決裂する未来が私には見える……そもそも話があわないと思う」 「そんなことないよ、楽しく過ごせたしいい子だった。どうしてそんなことを言うの?」  せっかく友達になれそうな子と知り合えたのに、色々教えてくれる親切な彼とこのまま会えなくなるのは嫌だった。  それにいつも竹林にいると言っていたから、茶室の側に通えば必然的に彼とも遭遇することになる。新鮮で採りたての笹が食べられなくなるのは嫌だ。  眉をハの字にしながら詰め寄ると、琉麒は流麗な眉根を寄せる。 「なんと言えば理解してもらえるのか……うん、そうだな」  琉麒は白露の真っ直ぐな髪の毛先を弄びながら遠くに視線をやり、また白露の顔に焦点を戻した。 「君は私の仕事を手伝いたいと思ってくれているんだったね」 「そうだよ、手伝いたい! 今はまだ無理そうだけど」  白露が呑気に寝ている間に、琉麒一人がこんなにも目の下に隈を作るまで働いているなんておかしなことだ。

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