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第53話

 宇天はなんの反応もないことを不満に思ったようで、ムッとした顔をしながら白露の方に振り向き、目を見開く。 「キミ、なんでそんな青白くなってるわけ? ああ、さてはボクとキミの才能の違いを比べて絶望しちゃった? 大丈夫だって、首輪を贈ってもらえるくらいに仲のいい婚約者がいるんでしょ、自信持ちなよ」 「う、うん……」  首輪をぎゅっと指先で握りしめる。青い玉が指先に触れて、ハッと息が漏れた。 (そうだ、琉麒は僕のことを唯一無二の番だって言ってくれた)  宇天がどんなに望んだって、彼が皇帝の番になることはない……はずだ。白露は震える声で言い返した。 「皇帝様は、運命の番じゃなきゃダメだって……」 「ああ、そのこと。どうせ麒麟族を必要以上に神格化したがる、年寄り連中が言い出したことでしょ。ボクたち若手のオメガは誰も信じちゃいないよ」  今度こそ言葉を失って黙りこむ。宇天は白露の様子に構うことなく空を見上げた。 「ああ、ボク本当にもう行かなきゃ。またね白露」  宇天の話にろくに反論できないまま、彼は去ってしまった。ショックを受けて立ち尽くしていると、魅音が気遣うように声をかけてくる。 「白露様、彼を脅威に感じる必要はありません。皇上は貴方を選んだのですから、堂々としていればよいのです」 「……そう、だね」  宇天があんなことを言うなんて予想もしていないなかった。まだ心臓がドクドクと音を立てている。  将来、宇天が琉麒の番となって彼の子どもを産む……? 考えたくもなかった。ぷちりと笹の葉をちぎって食べてみても、全然味を感じられない。 「白露様、ここではなくて、お部屋でお召し上がりになりませんか」  魅音が焦ったように声をかけてくる。ああそうだった、笹を食べるのはおかしな人に見えるんだったと頭の端でぼんやり考える。  宮廷の事情にはまだ慣れない。いつか慣れる日が来るのだろうか。提案通りに何枚かちぎっていき、部屋でつまむことにした。 (宇天は琉麒が好きなんだ……あんなに綺麗で優しい人で、しかも皇帝様だもんね。誰だって彼の番になりたいと思うよね)  白髪の美しいテン獣人は辺境出身の白露と違って優美で、笙も演奏できて物知りで、華族として理想的な姿のように思える。重く息苦しい感覚が腹の底から這い上がってきて、ちくちくと白露の胸を苛んだ。

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