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第54話

 肩を落としながら部屋に戻ると、以前切らせてもらった竹が骨と竹ヒゴの形になって返ってきていた。引き寄せられるように手に取る。  糸とハサミも用意されていることを確かめると、白露は靴を脱いで板の上に座りこみ、竹骨を重ねはじめた。  放射線状に重ねた竹骨を素足で押さえつけながら、中心点から交互に二本の竹ヒゴを通していく。何度も何度も竹ヒゴを引っ張り、均等に隙間なく編んだ。  ただの紐が重なって、形になっていく様は何度見ても見飽きない。少しだけ、胸のつかえがおりた気がした。  慣れた作業をで手を忙しなく動かしながら、つらつらと考え続ける。白露が皇帝の番であることを知ったら、宇天はどう感じるだろう。怒るかな、泣くかもしれない。すんなり受け入れてもらえるとは到底思えなかった。 (琉麒はみんなが番になりたがる憧れの存在なのに、正当な番であるはずの僕は体が大人になりきれていない、出来損ないのオメガだ)  このままじゃ彼の番だと認めてもらえない。一生発情期が来なかったらどうしよう……悩みながらも竹骨を重ね、だんだんと円を大きくしていく。このまま編み続ければ、ちゃんとカゴができあがると白露は知っている。 (大丈夫、きっと僕の体も大人になるはず。人よりちょっと成長が遅いだけだ。そうだよね? 本当のところは原因がわからないけれど……お医者様に診てもらったり、琉麒と愛しあうことで何か変わるかもしれない)  昨夜だって発情期が来そうな前兆があった気がするし、白露の体は確実に大人に近づいていると自分に言い聞かせる。気合を入れて竹ヒゴを引っ張ったところで、手元に影がかかった。 「白露?」 「わあっ!? え、琉麒……! 来てたんだ」 「声をかけても気づかないほどに集中していたね」  琉麒は床に座りこんだ白露のすぐ側にしゃがみこむと、素足に目を止めた。 「竹細工というのは、足も使って編む物なのか」 「あ」  もしかしたら、不潔だと思われたのだろうか。恐る恐る足を離すと、編みかけのカゴを手に取られる。 「待って、まだ触らないで。汚いよ?」 「部屋は綺麗に掃除してあるし、素足で外を歩いたわけでもないのだろう? 心配いらない」  琉麒はそう言うけれど、気になってしょうがない。

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