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第59話
真っ直ぐにこちらへと向けられる青玻璃の瞳を見上げて、目の下にまた隈ができていることに気がつく。
「琉麒、昨日は寝た?」
「いや、仕事が立て込んでいたから寝ていない」
「ちゃんと寝ないと体がもたないよ」
「そうだな。では白露、今晩は私の寝室で歌ってくれないか?」
誘うように顔をのぞきこまれて、心臓の鼓動が跳ねた。寝室で歌うだけ? それともまた、口にするのも恥ずかしいことをするのだろうか。
琉麒は白露の色づいた頬にキスを落とす。ぴゃっと後退りながら頬を手で押さえると、朗らかに笑われた。
「ははっ、本当に歌うだけでいい。私に眠ってほしいのだろう?」
「う、うん。寝ないと体に悪いから」
「大丈夫だ、急がないといっただろう? 気負う必要はないから、ゆっくりやっていこう」
白露の頭に琉麒の指が伸ばされる。柔らかな手つきで髪を撫で下ろした後、琉麒は踵を返した。
「では、また就寝前に会おう」
白露は部屋の扉が閉じるまで固まったまま、琉麒の背を凝視していた。
「歌うだけ、なんだ……」
どうしよう、意識してしまって胸の高鳴りがおさまらない。パンと両手で頬を叩いて気持ちを切り替えようと思ったのに、ただ痛くなっただけだった。
*****
発情期がそろそろ来ないかと毎晩期待した白露だったが、あの夜以降その兆しはなかった。医者にかかっても何も進展はなく、半月が経っても白露の体は未成熟なままだ。
琉麒は仕事が忙しいらしく、たまに会えば目の下に濃い隈をこさえているため、白露が子守唄を歌って寝かしつけるということが続いている。性的な接触はキス程度しかしていない。
琉麒は白露の膝の上で寝かしつけられるのを気に入っているようだ。顔色が悪いから子守唄を歌うねと提案すれば、特に反対されることもなく自分から白露の膝に頭を乗せて寝かしつけられていた。おかげで皇帝の顔色がよくなったと太狼や虎炎には喜ばれた。
このままでいいのかと迷うこともあったが、琉麒からは急ぐ必要はないと言われている。その言葉に甘えて、白露は皇帝の番としてやっていくために必要な勉強を優先してこなしていた。
勉強だけをしているわけではなく、竹細工もあれから作り貯めている。いつか華族たちにも認められることを信じて、なるべく華やかで豪華に見えるよう編み方を工夫していた。
試作品を太狼にみせたら、いいじゃないかと褒められたからそのままプレゼントした。太狼みたいに竹細工でも使えれば気にしない華族もいると知り、救われた気持ちになった。
(次の柄はなんにしようか、もっと面白い色の竹があればいいのに)
考え事をしながら歩いていると、前を行く魅音が突然立ち止まる。
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